憎しみあう5つのお題
1.それ以上近づくな その日は、カイリが旅行にでかける日であった。 「どうして貴様までついてこなくてはいけないんだ。私一人でも十分だとご当主にも申し上げたというのに……」 そう本人の目の前で嘆いて見せたのは、黒いスーツをピシッと着た長い黒髪を一つに束ねた見目麗しい青年。 「それはこっちのセリフだな。お前なんかいなくてもカイリさまを護れる」 嘆く青年同様不機嫌極まりない、同じような黒スーツを身につけた短い黒髪の少しツリ目な青年がそう切り替えした。 「…………………」 お互い無言に相手をにらみ合った。 バチバチと見えない火花が散っているかのように迫力がある中、少年はひとつため息をつく。 「……どうして仲良くできないのかなぁ…」 小さく呟いた声は両脇に座る護衛たちには届かなかった。 「おい」 「なんだ」 不機嫌に交わされる短いやり取り。 「もっと端によれ、邪魔くさい」 「なんだとっ」 今にも取っ組み合いになりそうな二人に、少年は本日何度目かになるか分からないため息をつく。 「棗、朧。そう騒がれると他の人に迷惑だよ」 『はっ!申し訳ありません!』 少年の護衛としてついている青年二人組は、少年の一声に声を合わせて返事はするものの、 「貴様のせいで浬さまが不愉快になられるだろうがっ」 「なっ、俺のせいじゃなくてお前のせいだろうがっ」 小声でも言い争い続ける二人であった。 それは少年が寝る時間になっても、 「いいか!それ以上近づくなよ!!」 境界線となる棒をはさみ、 「誰がお前なんかに近づくか!お前こそそれ以上来るなよ!」 少年に気遣いごくごく小さな声ではあるが言葉の応酬は終わらなかった。 【END】
2.一夜限りの休戦協定 「あの時、貴様が…!」 「なんだと!それだったらお前こそ…!!!」 大富豪の息子と言えどもカイリはまだ中学生である。 それがどうしたかというと、中学高校にはつきもののイベント『修学旅行』というものがカイリにもやってくるということである。 しかしそこは大富豪の息子であるだけに、ボディガードはそこにも付いて来るわけである。そう彼の目の前で今まさに舌戦を繰り広げている彼らのことである。 折角の修学旅行でも変わらず仲が悪い二人。ぎゃーぎゃーと始終やりあっているわけである。 「いい加減にしろ!!!!!」 イライラがだいぶ溜まっているのか、その二人のそばで足を踏み鳴らしているカイリが爆発したのは、いよいよつかみ合いになりかかっている頃だった。 ピタッ!と二人の行動は止まり、守るべき少年を見下ろした。 今まで怒った事のない少年がブリザードをまとい怒りをあらわにしていた。 「か、カイリさま?」 ツリ目の黒スーツが目を丸くし、 「っ、申し訳ありません」 長髪を束ねた黒スーツが頭を下げた。 「毎回毎回君たちは飽きないの?!僕に迷惑だと思わないの?!」 「すんません」 ツリ目の黒スーツがしおしおと萎んでいく。 「いい!二人も旅行の最中もう一度でもケンカするなら帰ってもらうからね!!!!」 『はい!』 ものすごい剣幕のカイリに思わず二人は頷いた。 「おい、ナツメ」 「なんだ朧」 ズカズカと足音立てて歩くカイリの後ろを静かに付き従い二人は小声で会話をする。 「とりあえず今日のところは休戦だ」 明日になればこの旅行も終わる。 「しょうがあるまい。我慢してやろう」 やれやれと肩をすくめ長髪を束ねた青年ことナツメは頷いた。 「あぁんっ。ガマンするのは俺のほうだろうがっ」 途端、機嫌悪くツリ目が更に鋭くなっていくオボロ。 「やるのか。帰らされるぞ」 こちらもかなり不機嫌ながらも牽制の言葉をかける。 「チッ」 それに反応するようにオボロは舌打つ。 「今夜限りだ」 「ああ」 夜のホテルの廊下で二人は頷きあった。 【END】
3.誰があんな奴のこと 「ねえ、棗さん」 「なんですか?」 それは休憩室での一幕。 護衛対象でもあるカイリの修学旅行に付き添い無事に帰り着いてからのことであった。警備長への報告も終わり、それはもう電光石火のごとく犬猿の仲であるオボロとは反対方向へ歩き出した。オボロが警備員の自室がある棟に向かう為、隣の部屋同士であるナツメは自然と反対の棟に向かう。 その道中ナツメはメイドの一人に捕まり、休憩室へと連れ込まれた。同時にメイドは思い切ったように問いかけた。 「朧さんのことどう思います」 「大嫌いです。むしろ目障り」 0.1秒で返事が返ってきた言葉にほっとしたようにメイドの表情が和らぐ。 「よかったー。二人ともとても仲がよいからそういう仲なんだと思ってました」 「な…!!そ、それは何かの嫌がらせですか!?」 本気で嫌そうに叫ぶナツメに「違います」と応えつつ、 「でも、なんだかんだで息が合っているとかお聞きするから…」 そういう仲になっても不思議はないかと思ったのだとメイドは語る。 「やめて下さい!」 立つ鳥肌を服の上から押さえ、ナツメは必死に叫ぶ。 「じゃぁ朧さんのことは好きではない?」 「誰があんな奴のことなんか!」 とにかく否定しまくるナツメにメイドはにっこり微笑む。 「じゃあ、私なんかどうですか?」 するりと腕をつかむメイドに「え?」とナツメはメイドを見つめた。身長差はそれほどはないが下から覗き込むような彼女を見下ろす形となった。 「あ、あの…」 「ダメですか?」 うるるっと瞳を潤ませつつ迫るメイドに、困ったように上を見上げる。 「申し訳ないですが、麗菜さん。貴女の気持ちに応えることはできません」 そっと腕を抜くとメイドは更に瞳を潤ました。 「貴女を不幸にするだけです」 「そんな」 「同性などを見ず、どうか貴女だけの素敵な男性と見つけて下さい」 「棗さん」 「お幸せを願っています」 そっと微笑みを浮かべ、ナツメはメイドに背を向け廊下へと出て行った。 「やっぱ、素敵……」 顔を赤らめたメイドはいっこうに諦める気配はなさそうだった。むしろ惚れ直したようにみられた。 「相変わらずもてるな、女には」 「うるさい」 「嫁にいくはずの娘が嫁貰って帰ってきたら親もさぞ嘆くことだろうなぁ。かわいそうに」 「…………」 「いや、この場合は女なくせに男の格好しているヤツにだまされている女たちのほうがかわいそうか」 ダンッ!! 壁を叩くと同時にナツメがギッと睨むように顔をあげる。今まさに通り過ぎようしたオボロがニヤニヤと笑っていた。 「そんなに地獄に行きたいか…」 「上等だ。やれるもんならヤってみな」 そしてとある大富豪の家、その庭ではいつもと変わらぬ刀と銃の音が響き渡る。 【END】
4.何故助けた スコープごしにターゲットを見つめ、しっかりと狙いをつける。 はずさない自信はあった。 静かに引き金をひき、狙ったとおりその弾丸がターゲットのこめかみを貫く。 いつもの光景ができるはずだった… キンッ 聞こえるはずのない音が響いた気がした。 黒い影が飛び出し、舞うかのように刀を振るい、弾をはじいてた。 軽やかに着地したそいつは黒い髪を括り黒スーツを身に付けたボディガードと思しきやつだった。 顔を上げた瞬間、スコープごしに目が合った。 (ありえない!) ここはターゲットが居る場所から500m以上離れているのに、たしかにそいつはこっちを見た。 冷たく輝く鋭い瞳で。 背筋に寒気が走った。 スコープからヤツが見えなくなるのも気づかず呆然とした。 逃げるべきか、いや逃げる場所もない。失敗には死を。それが決まり。 けど、まだ俺は死んでいない。どこかに執行者がいるはずなのに。 そんな風にぐるぐるとしていると、冷たい感触が首元にふれる。冷たく波打つ鉄だ。 そっと振り返ると、あの黒スーツがいた。どこまでも冷たい黒い瞳で見下ろしていた。 別の死神がきたか。終わりを予感した。別にいくあてもないのでいいかと思った。 黒い死神が視線をずらした。その瞬間首元の感触が消える。 キンッ カ…カン…ッ 真っ二つにされた銃弾が転がった。条件反射のように手が動き顔が動く。隣の建物から狙う男がいた。見つけると同時に指は動いていた。 どっと倒れていく男の姿は先ほどみるはずだった光景だった。 刀を下ろした死神が何の感情を浮かべることなくやはり俺を見下ろしていた。 「なんで助けた」 言いようのない憤りが急にこみ上げてきた。 「主人の命で、血を流さぬよう言われている。予定外ができたがあれはしょうがあるまい」 たんたんと言葉が帰ってくる容姿同様綺麗な声だと思った。 この手にかかって死ぬなら、こいつの前ならいいかもと思えた気持ちが今別の感情を起こす。 「失敗は許されない。俺に行くあてはない。なのに…」 どうして死なせてくれなかったのか。 「殺す価値がお前にあるとでも思っているのか」 見下す目はとても冷たかった。無感情ではない軽蔑の目だった。 怒りがこみ上げてきた。こんな感情は久しぶりだった。 あの時からこいつとは絶対に相容れないだろうと感じた。 今、 「朧、いくよー」 「へぇーい」 ボディガードという仕事でカイリという少年を護っている。 そして、 「返事はしっかりしろ、こちらの士気に関わる」 相容れないと思った相手はそのボディガードの同僚として現在俺を睨みつけていた。 「はっ、それくらいでなくなるようならとっとと帰ればいいんじゃないか」 「貴様が居なくなれば問題ない」 「俺は仕事を放り出さない、いい子ちゃんなんでね」 「どこかだ」 「お前の目が節穴だから見えないだけじゃねえか」 「私の目が節穴ならお前の目は盲目だな」 とりあえず仲良くはやってない。やれるはずがない。結局俺はこいつと合わないんだよ。 「ほんと、どうして二人そろうとこんなんだろう…」 カイリさまのため息が聞こえた気がするがあえて聞かないでおこう。 【END】
5.……どうかしてる 「夏祭り?」 「あー、知らない?」 中学にあがるまで家庭教師生活だった大富豪の息子に苦笑いを浮かべて少年は夏祭りに誘った。 「父さんに聞いてみるけど、たぶんいつも通りのおまけつきだよ?」 「ああ、かまわないぜ」 †††††††† 「聡、きたよー」 「おう、あがれや。他のやつらまだなんだ」 中にひっこむサトルに続いて黒スーツを着た長い黒髪を一つに束ねたボディガードが細く長い包みと共に入り、カイリが入り、最後に黒スーツに短髪の黒髪をしたボディガードが無造作に入っていった。 「にしてもナツメさんもオボロも大変だなぁ、こんな時も仕事なんて」 「こらガキ。俺にもちゃんと尊称つけろ」 短髪の黒スーツが言うと 「貴様程度につける必要を感じないだけだろ聡くんは」 長髪の黒スーツが嘲笑を浮かべた。 「あんだと…!」 一気に険悪ムードになる空気を割ってサトルの母がお盆をもってやってきた。 「はい、飲み物。暑い中ご苦労様ね」 にっこりと空気を読まない笑顔に気分をそがれ、二人は黙って飲み物に手を伸ばした。 「あら、あなた達着替えは?」 「あ、服の話はし忘れた」 「え、何か変ですか?」 3人を見て首を傾げる母親に聡はしまったとグラスから口を離した。カイリはいつもの洋服になんの問題があるのかと首を傾げる。 「日本のお祭りといったら着物よーっ。聡の予備があるからそれを着なさいな」 にこにこ笑顔で女性は棗の腕を掴む。 「え?」 「聡。2人をお願いね。笙くんのがあるから使いなさい」 「ういー」 息子に言いつけるとナツメを連れて奥の部屋に向かう。 「あの茅野さん?私は仕事が…」 「着物は日本人の心ですわ。スーツで祭りなんて無粋ですよ」 にっこり笑顔は有無を言わせない雰囲気で、女性には優しくをモットーのナツメは戸惑いつつ連れて行かれた。 「ご愁傷様てやつだな」 ニヤリと笑うオボロの肩にぽんっと手が置かれる。 「オボロも着替えるんだよ」 振り返れば、母によく似た笑顔の少年がそこに立っていた。主を見れば無力とばかりに首を振っていた。 †††††††† 他の面々もそろった頃、やっとこそさ女性が戻ってきた。 「お待たせー」 女性が笑顔で入ってくる。 「ほらほら棗さん」 「あのやっぱ私はスーツのほうが…」 声だけが返ってくると「んっもう」女性が奥に入り腕を引いてきた。 「わ…っ」 「おぉ…」 「綺麗じゃないですか」 感嘆の声が上がった。 深い夜を照らす白い月が見下ろすは深紅の華々、華に捕らわれた白い螢。黒地の浴衣を鮮やかに彩る曼珠沙華、そして月と蛍の浴衣姿である。うっすらとされた化粧はもとの美貌をより映える姿にさせ、いつもは一つに結び垂らしている綺麗な黒髪もアップにされ小さな飾りがついた簪でまとめられ、より姿をはっきりさせていた。思わず全員が目を奪われた。ナツメ自身は慣れない姿が恥ずかしいのか赤らめた顔を浬たちから顔を逸らしていた。めったにないナツメのその態度は普段男性的に見えるのとは違い女性らしく見えた。 「あの浬様。やっぱ着替えた方が…」 「えー、似合ってるんだからいいじゃない。僕はもっと見てたい」 笑顔でカイリに言われ恥ずかしそうにしながらも「分かりました」と頷くナツメ。その後ろで呆然と立つオボロを振り返りカイリは「行くよー」と声をかけた。 「……っ はい!」 慌てた様子でオボロはカイリの脇を固めた。 †††††††† ただ驚いただけだ。普段見ない姿だから。ただそれだけだ。 必死で自分に言い聞かすも恥じらい背けた姿から見えた白いうなじが女性を強調する。バクバクする心臓を、昇ろうとする血を、必死に隠す。 カイリさまの言葉に赤らめて頷く姿にッキンと胸に何か走る。いやいやいやいや……違う違う違う違う……。頭の中で否定を浮かべる。 「おい、どうした」 様子が変だと思ったのか当人が声をかけてきた。何故か顔が直視出来なかった。 「なんでもねぇよ…!」 ああ、今日の俺は……どうかしてる。
こちらのお題は 「憎しみあう5つのお題」 http://www1.odn.ne.jp/kott/aid.html ↑よりお借りして作成しました。 サイト自体は閉鎖をされてしまっているようです。 お題のキャラ設定 ◆カイリ−浬− 大富豪の息子。中学に入る迄は家庭教師での教育のみをうけていたため、世間知らずなところが多々ある。 ナツメ、オボロが中心として護衛につくことが多い。父親の唯一の跡継ぎ。 ナツメには、幼い時からいる護衛のため姉や兄のように慕っている。 最近の悩みはナツメとオボロの諍いが絶えないこと。 2年前に母親を亡くしている。 ◆ナツメ−棗− 大富豪のボディガード(護衛)。もとは主人の護衛頭だったが現在は一人息子の護衛役。 14の時に大富豪に拾われてこの世界に入る。母親を喪った時に息子の護衛に任命された。 歳が近かったため息子のお守りをしていたのもあり、この形になった。 得物は刀。性別は女。外見は髪を一括りにした長髪の黒スーツの男性。さらしでかなり抑えている。 天敵はオボロ。命を大切にしない輩や目が虚ろな輩が大嫌い。 ◆オボロ−朧− 大富豪の息子のボディガード(護衛)。もとは大富豪の命を狙うスナイパー(狙撃手)。 2年前に仕事を失敗して、大富豪に拾われる。母親を亡くしたばかりのカイリの護衛にナツメとともに任命される。 得物は銃。百発百中に近い腕前。性別は男。 天敵はナツメ。だけどそれは愛情の裏返し?虚ろな自分を軽蔑されたところから感情が蘇り始めた。 愛?がゆえに憎い。カイリに癒されたところもありカイリには優しい。 ◆そのた サトシ−聡−・・・カイリの中学初めての友達。ナツメ・カイリにも臆しない元気少年。 レナ−麗菜−・・・大富豪の家に勤めるメイド。ナツメに惚れている。若くて美人。 カヤノ−茅野−・・・サトシの母。ちなみに苗字。名前は考えてない。ごーいんぐまいうぇい。 ショウ−笙−・・・名前だけ登場。サトシの従兄弟。