同じぬくもり
風月 藍



「できた!!」
 パッチンっ
 糸を切り、ボクは喜びの声を上げた。
「えへへへ…」
 やっと完成したソレに顔をうずめながら、笑いが止まらない。
「ぐー!!」
 ボクができあがった喜びに浸っていると、カーくんの声がボクを現実に引き戻した。
「あっ
 ゴメンゴメン。
 すぐに夕飯の支度するね」
 ボクはカーくんに謝り、台所に向かった。
 あれじゃあ、まるでルルーみたいだよね。
 さっきのボクを思い返して、友達の一人を思い浮かべた。
 コトコトと煮えるカレーをお玉でまわしながらボクは苦笑を浮かべていた。




「ぐぅ〜ぐぅ〜」
 大きな鼻ちょうちんを膨らませて、カーくんは気持ち良さそうに眠っている。
「むぅ。
 どうやって渡そう…」
 本当はクリスマスに渡したかったんだけどなぁ。
「クリスマスどころか年越しちゃったし…」
 膝にうずくまりながらボクは悩んでいた。
「う〜ん、バレンタインが近くなってきてるけど、これ以上遅くになるのも悔しいしぃ…
 でも、突然じゃ変だろうしなぁ」
 う〜ん、ほんとどうしようかなっ
 ベッドの側に紙袋に入れたのとそのままの、二つのそれを眺め悩み、ボクの夜はふけていった。









「ふわっ〜………」
 アクビの息が白く、けどすぐに街の寒い空気の中に溶けていった。
「眠い…」
 結局、昨日はほとんど眠れず、ボクは寝不足で目をこすっていた。
 一通りの買い物をすまして家に戻る帰り、未だにどう渡せばいいのか思い浮かばず、ふらふらと森の方に寄り道をした。
「やっぱ、バレンタインしかないのかなぁ…」
 けど、そうするとまだ当分待たなきゃいけないし。

 湖の側あたりを歩いていると、突然つむじ風が目の前に吹いた。
「わっ」
 突然の風にボクは目を閉じた。
 そして、次に目をあけると、目の前に剣の切っ先があった。
「うわっわ!」
 驚いてボクは後ろに飛びのいた。
 そして、剣の切っ先をたどり、剣の持ち主を見た。
「アルル!
 今日こそはお前(魔力)をもらうぞ!!」
 予想通り、剣の持ち主はシェゾだった。
「んっもう!
 だから、そういうゴカイをまねく言い方はやめてよっ
 ヘンタイ!」
「んっなっ……
 だ、誰が変態だ!
 俺は闇の魔導師シェゾ・ウィグィィだ!!」
 あいかわらずの彼にボクはいつものように言い返して、彼もまたいつものように怒鳴り返した。
 そして、すぐに呪文の詠唱を始める。
 けど、いいかげんのことだからボクはその事を予想していて、もちろん呪文を完成させたりはしない。
「ファイヤー!」
 ボクが彼の足元に炎を放つと、シェゾは詠唱を続けたままギリギリで避ける。
「アイスストーム!」
 そこに素早く新しいのを叩き込む。
「ちぃっ」
 さすがに呪文を中断して、シェゾは大きく飛びのいた。
 さっきまでシェゾがいた場所に氷の嵐が吹きつけ、地面を凍らせる。

「もう一回アイスストーム!」
「ファイヤーストーム!」
 ボクの呪文とシェゾの呪文がぶつかり合う。
 氷が炎に溶かされて湯気で視界が真っ白になる。
「うわっ…」
 広がる湯気に、一歩ボクは下がった。
 風が吹いてすぐに視界は晴れた。
「闇の剣よ…」
 少しずつはれていく視界の向こう側でシェゾは黒い気をまとわりつけた剣を今にも振り下ろそうとしていた。
「切り裂け!!」
「きゃっ!」
 ボクが急いで避けようと思った時には、剣にまとわりついた気が放たれた。

「つぅ…」
 避けようとしていたので何とか直撃は逃れたけど、ボクは痛みに顔をしかめていた。
 その中、彼は新しく詠唱をしていた。それは何度も聞いている古代呪文。
 あわてて、ボクは詠唱を始めた。
 同時に横に移動して、木の中に隠れる。
 シェゾは池近くから、目でボクの姿を追いかけた。

 そして、シェゾが最後の一節を唱えている時、何とかボクの詠唱は間に合った。
「ジュゲム!!」
 ざっと木の間から出て、シェゾがいる場所に呪文を放った。
 爆発が起こり、突風がボクの髪をあおる。
 煙が晴れると、シェゾが倒れていた。
 ボクは勝ったと思って、シェゾに近づいて行った。
「くっ……」
 シェゾは起き上がろうとしたけど、直撃に近かったようで、力が入らないようだった。
 ふっとボクは完成したあれの事を思い出し、ちょっとした事を思い浮かべた。

「ヒーリング」
 ボクはそんな彼に回復魔法を唱える。
 んでもって、にこにこと笑って言ってあげた。
「また、ボクの勝ちだねっ」
 シェゾはすんごく悔しそうな顔をした。
「……そうだ。
 シェゾはいつもシェゾが勝ったら魔力をよこせって言うんだから、ボクにも景品あっても言いと思わない?」
「はあ?」
 急にボクがそんな事を言うとシェゾは何言ってんだという風にボクを見上げた。
「そうゆうわけで、今日一日ボクとつきあってよ」
 ボクの言葉にさらに呆然としたような顔をシェゾはしていた。
 ボクはこれでキッカケを作って渡せないかと考えていた。
「ほらほら、まずはこれ持ってよ。
 キミのおかげでカーくんもお腹すかしているよ」
 シェゾに重い方の袋を渡し、もう一個の袋を持ってボクはうながした。
 腕をつかんでいるところで彼はボクが何をして欲しいのか分かったみたいで、ため息をついた。
「…………仕方ねぇ。
 しかりつかまってろよ」
 シェゾはそう言うと、転移魔法を発動させた。






「なぁ…」
「なに?」
 お昼ごはんを食べている中、ボクがカーくんのおかわりをもっていると、シェゾは何か呆れたようなそんな感じに声をかけてきた。
「三食これか?」
「うん、だいたいは」
「あきねぇか?」
「そうでもないよぉ。
 昨日はシーフードだし、一昨日は野菜だし、今日はビーフだし」
 他にも、はちみつ入りとか、チキンとか工夫してるし、とボクは言ってご飯の上にカレーをかけた。
「はい、カーくん」
「ぐー★」
 カーくんの前に持ったのを置いて、ボクは一口食べてシェゾに首をかしげた。
 シェゾはため息をついていた。
 変なの。


 お昼の後、さっきの勝負でちょっとダメになってしまったものをシェゾを荷物もちにしてカー君と三人で買いに行った。
 ルルーとかに途中あって、罰ゲームのようなものって言うと、面白げな顔で去っていった。
「嫌な連中に見られた」
「ん〜、変なこと言われるかもねっ…」
 シェゾとならボクは嫌じゃないけどなぁ〜
 ボクはそんな事を思いつつも、シェゾの前を歩いていた。








「さて、次は何してもらおうかなぁ」
「…………」
 家に戻って、ボクがぶらぶらと足を揺らしてイスに座りニコニコしていた。
 シェゾはすんごく嫌そうな顔をした。
 けど、表情だけで無言。
「何してもらおっか、カーくん」
「ぐぅ?
 ……ぐっぐぐっぐっぐぅ」
 ふんふんと、ボクは机の上のカーくんの言葉に頷いた。
「……う〜ん、悪くないね」
「ぐぅ!
 ぐぐ〜」
「えっ、もうお腹すいたの?」
 いつもより少なかったせいかなぁ、カーくんはそう言った。
「んー、じゃあ、それをやってもらうかっ」
 ボクがカーくんの意見にしようとしてシェゾを見ると、
 勝手に話を進められて、逃げようかどうかしていたのか、シェゾは外を眺めたいた。
「で、何をやれって?」
 諦めた感じの表情でこっちを振り向いた。
「夕飯つくってv」
 にっこりボクが笑って言うと、肘をついていたシェゾは手に乗せた顔をずるっと手から落とした。
「…………」
「カーくんはカレーにうるさいから、味には気をつけてねv」
 脱力しきったシェゾにボクは笑顔いっぱいに言ってあげた。



「んー、おいしいv」
「ぐー」
 もぐもぐとホッペに手を当ててボクはシェゾの料理を味わった。
「何で俺が……」
 シェゾは愚痴を言いながらも自分で作った料理を食べていた。

「ちっ
 すっかり遅くなったぜ」
 ついでに食後のお茶なんかもした後、すっかり外は暗くなってた。
 まだ冬だから、日が落ちるのも早い。
 冷たい風が微かに吹いていて、シェゾはマントを握っていた。
「あっ、ちょっと待って」
 外に出る気は無いらしく、テレポートを唱えようとしたシェゾにボクは声をかけて自分の部屋に入る。
「ちょうど良いよねっ」
 紙袋からどう渡そうか悩んでいた物を取り出す。

 マントをすでにとめて、シェゾは壁によりかかっていた。
 ボクが戻ってくると壁から離れた。
「で、何だ?」
「あのね……
 ……今日はありがとう」
 そう言って、ボクは手に持っていたそれをふわりとシェゾの首にかけた。
「……これは…」
「マフラー」
 キミの為に作ったんだよ、て心の中でボクは付け加える。
「まだ、寒いからね。あげる」
 ボクはそう言うと、シェゾはその白いマフラーにさわってじっと見ていた。
 何かおかしいかな…
 ボクがドキドキと心配していると、シェゾは意地悪な笑い方をして、ボクを見た。
「ヘタクソ」
 なっ…!?
 これでもがんばったんだからあああああ!!
 ボクは怒りで、両手をプルプルと震わせていると、ぽんっとシェゾはボクの頭に手をおいた。
 ボソボソと小さな声で言われた言葉に、
 ボクが驚いてシェゾを見上げたら、もうそっぽ向いてシェゾはテレポートを唱えていた。
「うわっ」
 小さな風が起こり、シェゾは帰っちゃった。




 その日の夜。
 ボクはシェゾに渡したのと同じ、白いマフラーを握ってベッドでひざを抱えてた。
「…………」
 シェゾが最後に言ってくれた言葉を思い返して、口元がゆるみそうだった。
(次回作に期待しておいてやる)
 それは、一般的にそんなに嬉しいほどの言葉じゃないかもしれない、
 けど、ボクはシェゾがマフラーを受け取ってくれて、次の機会もくれたことが嬉しくて嬉しくて。
 マフラーを首に当てると、シェゾが感じているだろう同じぬくもりが、
 首を、そえている手を、あたためてくれて、
 同じぬくもりを今感じているかと思うだけで、
 幸せでいっぱいになる。

 今夜はとても良い夢を見て、よく眠れそうな気がした。


*おしまい*







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