a birthday surprise
風月 藍




 ――7月22日

 街に続く道を青年がてくてくと歩いていると、後ろから少女の声がきこえた。
「あっ、シェゾだ。
 おーいっ」
 聞きなれたその声を無視して青年は微妙に足を速めた。
「あっ…こらっ」
「ぐぅっ」
 少女は青年が逃げ出そうとしていることに気づき、追いつこうと走り出した。肩の上にいた黄色い小動物がヒシッと青いアーマーにしがみつく。
「ちょっと、無視することないじゃないかっ」
 ガシッと青年の肩をつかみ少女は文句を言った。
 青年はあくまで早歩きだったため、少女の走りでも十分に追いつけたのだ。
「……別に話すこともない、戦う気もない、なのにお前にかまう必要ないだろうが」
 少女の手を払うと青年は冷たく言い放った。
「むー。キミになくてもボクにはあるもん」
 頬をふくらまして少女は言った。
 歩調を変える気がない青年とコンパスの差もあり、少女は小走りの状態で話すはめになっていた。
「ほぉ。何のようだ。下らない事じゃなければ聞いてやる」
 少し歩調を緩め、青年はなんか偉そうに言った。
「…下らない事……ていうか…
 今日何の日か知ってる?」
 ちょっと言いよどむと少女は楽しそうに青年に聞いた。
「何の日?……特に何かあるような記憶はないが」
 少女の言葉にふむっと数瞬考え込むと、青年は首をひねった。追い払おうとしていたはずなのだが、意外と付き合いが良いものだ。
「ふふふ…今日はね、ボクの誕生日なんだよっ」
「ぐーーー!」
 一向に何も思い浮かばない青年に勝ち誇ったように少女は告げた。そうだそうだ、という感じに肩の上の動物もうなずいた。
「…………」
 一気に青年の歩調がすばやくなった。
「ちょちょちょちょ…」
 ガシッと少女は青年の黒いマントを引っ張った。
「ぐっ…!」
「あっ……」
 不意をつかれた青年は、そのまま首を絞められてしまった。

 青年こと闇の魔導師シェゾ・ウィグィィ。少女こと魔導師の卵アルル・ナジャ。
 本来ならば、他人の魔導力を奪う青年と彼に獲物として狙われている少女。
 狙う立場が狙われる立場に立っているはずの人間に殺されるかける瞬間であった(笑)

「貴様、俺を殺す気か!?」
「だから、ゴメンて言ってるじゃないか」
「ぐぐー」
「…おい、いまそいつ何を言った」
「……聞かないほうがいいよ」
 アルルの肩の上にいる小動物こと通称かーくんことカーバンクル。
 彼(?)の言葉はアルルにしか理解できないのだが、なにやら不穏な雰囲気を感じたのかシェゾはかーくんを睨みつけた。
 世の中どんなに言葉通じ合わなかったり喋れない状態であったり聞こえない状態であろうとも悪口だけは理解できたりするものであった。
「ちっ…まぁいい。
 貴様らの用事も終わったんだろう。だったら、さっさと俺の前から失せろ」
「むぅ。ひどい言いようだなぁ。普段はこっちがいやでも勝負挑んでくるくせに」
「今日はそんな気分じゃないからな。
 そっちが移動しないなら俺が移動するぞ」
「だめ」
 別に許可を求めたわけではなかったのだが、シェゾは立ち上がろうとしてアルルの言葉に固まった。
「なんで、貴様にそんなこと言われなきゃいかんのだ」
「だって、今日、ボクの誕生日パーティーを開いてくれるって言うんだもん。シェゾも来てよ」
「はぁ?
 貴様わかってるのか?貴様は俺の獲物なんだぞ。どうして獲物のそんなのに付き合わなきゃいかん」
「いいじゃん。今日は戦う気分じゃないんでしょう。多いほうがパーティーも面白いもん」
「ぐーぐー」
 かーくんの相槌に笑って「ネ★」とシェゾの袖を引っ張った。
「さー、サタンの塔にGO!」
「おい、こら、勝手に決めんな!」
 引きずっていこうとするアルルにシェゾは怒鳴り振り払おうとしたが、じっと見つめるかーくんの瞳となにやら赤い光が集まっていくルベルクラクに危機を感じて、天を仰いだ。



「あるるぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜v」
 パーティー主催者こと魔王サタンは本日の主役が扉を開けると同時に走り寄ってきた。
「っ!?…なぜ、貴様が一緒にいる!!?!」
「来たくて来たんじゃねぇ。こいつに引きずられてきたんだよ」
「なぬっ?!」
 不機嫌そのもののシェゾを指差していたサタンは、シェゾの言葉に本当かっ!?とアルルを見た。
「うん」
 それにあっさりとアルルがうなずくと、なにやら岩でも背負ったようにサタンは沈み込んだのだった。


「あっ、アルルさん。
 お誕生日おめでとうございます」
 うろこさかなびと…まぁつまるところ人魚のセリリはふよふよと宙をすべりアルルに近づいてきた。
 おずおずと手に持つ物を差し出しながら祝いの言葉を述べる。
「ありがとー」
 それを受け取りアルルが微笑むとセリリはほっとしたように微笑み返した。
 セリリに続くように、ドラコ、ウィッチ、ラグナス、ルルーと何人かが祝いの品を送り、他は言葉を送った。


 サタンが用意した巨大なケーキの火をアルルが消すと、口実であったアルルの誕生日をそっちのけて宴の場と貸すのであった。
「かーくん、あんまり食べ過ぎちゃだめだよー」
「ぐー!!」
 シェゾほどの男性二人分の高さ、十人が輪になった円周のケーキに取り掛かるカーバンクルにアルルはそう言ったが、カーバンクルはわかっているのかはなはだ疑問な勢いでケーキを収めていった。
「あれ?シェゾは?」
 先ほどまでそばにいたはずなのだが、いつの間にかそこから姿を消していた。
「さぁ、どっか隅にでもいるか、帰ったんじゃないのぉ」
 フライドチキンを食べながらドラコがそう答えた。
「ふーん、そっか」
「って、どこに行くの?」
 うなずきながら移動するアルルに、ドラコが尋ねると、「荷物おいてくる」とアルルは答えた。
 それに納得するとドラコは再び食事を再開した。


 誕生日を祝ってもらうことは嫌いじゃない。
 おばあちゃんやお母さんや村の人たちにもよく祝ってもらった。
 けど…
「お父さん…」
 幼い日、帰ってくると約束した、けれど帰らなかった父親。過ぎてしまった、あの4歳の誕生日。
 誕生日が近づきだす時期になり、誕生日を過ぎるまでの間がもっとも彼を思い出させる。
 アルルは沈んだ表情で、バルコニーへと歩いていった。


「あら、なんであんたがこんなところにいるのよ」
 いつもよりも少し過激な感じがする黒い袖なしのドレスを着たルルーはホールの隅でちまちまとグラスを傾けていたシェゾに声をかけた。
「騒がしいのは嫌いだ」
 憮然としてシェゾは一言そういった。
「なら、こなきゃいいじゃないの」
 ルルーは手に持つセンスを口に当て呆れたように息をつく。
「あいつが引っ張って来たんだよ。誰が来たくて来たと言った!」
「抵抗してないんだったら同じだと思うけど」
 言葉を荒くするシェゾにさらりとルルーが返すと、シェゾは言葉に詰まり、そっぽ向いた。
 その様子を見て、ルルーはふふんっ、と勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
 横目でそれを見ていたシェゾはちっと舌打ちをして、グラスを傾けた。
 カランッ、残り少ない琥珀色の液体の中、氷がゆれる。
「ふんっ、まぁいいわ。あんたにかまってる暇もないしね」
「だったら、とっとと消えうせろ」
「わかってるわよ。ところで、サタン様しらない?
 さっきから探してるのだけど、いないのよねぇ」
 せっかくドレスも良いのを着てきたのに…と呟くルルーに、内心は(逃げたんだろうよ)と思いながらも「知らん」と短くシェゾは答えた。
「あっそ」
 期待はしてなかったわ。と言い、ルルーはあっさりと引き下がっていた。

「たく、なんなんだよあの女は」
 ぼやきながらふっと顔を動かすと、視界にゆれるポニーテールような髪をした人影が写った。
「ん?」
 どことなく苦しそうな光を帯びた金の輝きに、シェゾは首をかしげていると、その人影はガラス戸を引きバルコニーへと出て行った。
「…………」
 ぐいっと中身をすべて飲み干すと、シェゾはグラスをテーブルに置き、バルコニーへと向かった。

 ふぅ……
 少女は手すりにもたれかかると空を見上げ息をつく。
 夕方近くにシェゾと会い、サタンの塔に入ってからずいぶんと時間がたっていた。
 夜はすっかり空にその帳を下ろし、ほとんど満ちたといっても良いふっくらとした月が大地を照らしていた。
「……………………」
 じっと、アルルがその月を見上げていると、
「主役がそんなところ行っていいのか」
 後ろから声がかけられた。
「だって、もうみんなドンチャン騒ぎじゃないか」
 ちょっとビックリしながらもアルルは後ろを振り返り、笑った。
「まっ、たしかにそうだがな」
 つかつかと歩み寄りシェゾはアルルの隣に立った。
 何かを言うわけでもなく、ただ、手すりに寄りかかり景色を眺めている。
「…………」
 ただ、時間だけが流れていった。

「ねぇ…」
「あん?」
「シェゾはなんかくんないの?」
「何で俺が貴様にやらんといかん。いきなり連れてこられたのに」
「むぅー、いいじゃんか。ケチ」
 アルルは膨れ面で文句を言う。
「そういえば、シェゾの誕生日っていつ?」
「…3月16日だが」
 何をいきなりと思いながらもシェゾは律儀に答えた。
「ふーん、そっか。もうすぎちゃってるねー」
 残念お祝いできるかなぁて思ったのに。と、アルルは呟いた。
「別に祝うようなもんじゃないだろ」
 シェゾは呆れたように残念がるアルルを見た。
「いいじゃん。したいんだもん。
 そうゆうことで、来年はしようねv」
 アルルが笑って言ったセリフにシェゾは思わずはぁっ?と口を大きく開いた。
「なんでそうなるっ!?」
「決定★決定★」
 シェゾの抗議をものともせずにアルルはそう言って手をたたいて喜んでいた。と思ったら、彼女は顔が突如沈んだ。
「…………」
 何か言いたそうなその雰囲気にシェゾはただ、黙り促した。
「あのね、
 誕生日が近づくたびにね。お父さんのことを思い出すの。
 ボクのお父さんはボクが4歳のときに行方不明になっちゃててね…」
 ぽつりぽつりと自分に聞かせるように思い返すアルル。
 いまだ、諦めがつかない気持ちがそこにあった。


「…………」
 何か、言葉をかけるでもなく、シェゾはそこにたたずんでいた。
 それでも、アルルは少しだけ心が軽くなったような気がした。
「ありがとね。
 ……そろそろ、中にもどろっか」
 そう言って、ガラス戸に歩きだしたアルルの腕をシェゾはつかんだ。
「わっと…」
 なに?とアルルが振り返ると、「ちょっと付き合え」とシェゾはいい、いきなりテレポートを使った。
 そこは屋上といったらいいのだろうか、先ほどのバルコニーよりも空が近く感じられた。
「いきなりとばないでよー」
 文句を言うアルルをほっとき、シェゾは何かを唱えだした。
「なにしてるの?」
「誕生日の祝いほしいんだろう。物はねぇからな」
 シェゾはそう言って、何かを振りまくように腕を振った。

「わっ…」
 それは、
 まるで、星が舞い落ちてきたような景色であった。
「まぁ、これで我慢しろよ」
 月にも劣らない輝きで、黄、青、緑、白、派手ではないけど煌びやかな瞬きであたりを小さな輝きが包み込む。
 まるで雪にはしゃぎまわる犬のように、アルルはその光の中踊るかのようにくるくると回っていた。
「我慢だなんて!
 すごいよっ、うれしい!!」
 頭上の降り注ぐ光を見ながら、アルルは満面の笑みを浮かべた。そして、
「シェゾ、ありがとう!」
 スタンッと急に回転を止めると、アルルはシェゾに微笑みを送った。


−FIN−



あとがき:
暑い夏のこの時期といえば、アルルの誕生日ですね。ということで、まともに誕生日小説書いてみました。
暑中お見舞い小説が書けないかもしれないので、もしかしたら、これが暑中お見舞いの挨拶代わりかもね。
そんなわけで、暑中お見舞い申し上げます。今後とも風月藍の「地上の空 空の海」をよろしくお願いいたします。
今夏は例年に比べて私忙しくなりそうです。受験生て大変なのね(爆)
 あっ、ちなみにタイトルの「a birthday surprise」とは成句で、「誕生日の思いがけない贈り物」という意味をもっています。
=2002.07.22=


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