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HAPPY CHRISTMAS
たった一言だけかかれていたクリスマスカード。 それが誰からのものだったのかわからない。 だけど、ボクはそれが彼からのものだったと思いたかった。 季節は冬。その日はそこら中でカップルが仲を良さげにしている、クリスマスイブ。 メインのキリスト誕生日はほっとかれぱなし。 かなり、寒く。空は雨雲よりも少し薄い灰色の雲に覆われていた。 この感じだと雪が降るだろう。 そんな寒い中、カップル達のいる町を一人の青年が歩いていた。 銀の髪はまるで月光という言葉がそのまま色になったようで、青い瞳はよく晴れたの日の青空のようにも、深い海の色にも見えた。 その容姿はとても整っていて、街行くカップルの女性達をも振り向かせる。 彼の瞳と髪をいっそう引き立てている黒一色のアーマーとマントは彼が魔導師である事を語っている。 だが、それでいて腰にさされた剣は彼が魔導師である事を少し訝しめせる。 彼の名前はシェゾ・ウィグィィ。正真正銘の魔導師である。その腕は一流といってもいいだろう。 彼は暇そうに町をぶらぶらしていた。そして、街外れにある公園のベンチで彼は座り込んだ。 ――どうすればいいんだ…… 彼は今、途方にくれていた。 彼の中にある、ずっとずっと昔に葬った。いや、葬ったと思っていた封じ込んでいた感情が今彼を蝕んでいたからだ。 そして、その感情は自らが獲物と決めていたある少女に向かっていた。 このままでは彼は彼女を獲物として見れなくなるだろう。いや、すでに彼女の事を獲物として見れなくなっていた。 彼女の存在は彼の中で全てを覆うほど大きくなっていたと言ってもいいくらいだった。 ――だが、俺は…… 彼は思いつめた表情で地面を見つめていた。その時、彼の上から影が生じた。 彼が顔を上げるとそこには少女がいた。彼が今、最も大切に思う少女が。 「アルル……」 「やっぱ、シェゾだった。どうしたのこんなとこで?」 彼女はニッコリと笑いながら彼の隣に腰をおろして首をかしげた。 「別に……、お前こそどうしてここに?あの黄色いのも連れずに」 シェゾの言う黄色いのとは彼女、つまりアルルがいつも連れているカーバンクルという名前の黄色いウサギのような生き物の事である。 「そう!それなんだ!カーくんがね。いつのまにかどっか行っちゃって、今さあ、サタンの所に行ってきたんだ。 そしたら、カーくんたら呑気にご馳走食べてんだもん。思わず、怒って出てきちゃった。 ボク、本当に心配してたんだよ」 アルルは唇をとがられ、ちょっとすねたように言った。 ――はあ 彼は心の中でため息をついた。 「それで、その帰り道って事か」 「うん、そこ通ってたらさあ、なんか見た事ある変態さんがいるなあって思って」 「……だ〜れ〜が〜変態だあ!!」 思わず、彼はベンチから立ち上がり怒鳴った。 その額に微かに怒りのマークが浮かんでいるのはアルルにも分かった。 「やっだなあ、本当の事じゃないか」 アルルはくすくすと笑いながら言った。 それに比べ、シェゾはよりいっそう怒りのマークを大きくしていくように感じた。 「なんだとお」 「だって、キミはいっつも「お前が欲しい!」とか言ってるじゃないか。それも肝心な『魔力』を抜かしてさあ」 「うっ」 アルルがシェゾの事を指差しながらそう言った。 その姿にどこかしら怒りらしきものを感じたのか少し圧倒されながら彼は言葉に詰まった。 「………………のに」 「うん、なんだって」 アルルのかすかな呟きを聞き逃して、彼は思わず聞き返した。 そしたら、アルルはいきなり顔を真っ赤にして大きく首を横に回した。 「なんでもない!」 ――ボクだけに言ってくれるなら良かったのに、なんてシェゾに聞かれたらどんな勘違いされるか。 ……でも、もし『魔力』を抜かしてんじゃなかったら、ボクだけに言ってくれたら、……//// ――なんなんだ??? 「あっ、そろそろボク家に帰るね。夕飯の買出しもあるし。じゃあね」 顔を赤くしたまま、アルルはあたふたと走り去った。 「あっ、おい」 彼は先程の言葉が何だったのか気になっていたので彼女に聞こうとしたが、その時には彼女はすでに公園の外に出ていた。 「なんだったんだ」 彼はぽかんと彼女が走り去った方向を見ていた。そして、微かなため息のように呟いた。 「んっ!」 白いものが彼の目の前をちらほらと落ちてきた。彼は上を見上げる、空から白銀の粒が降ってきていた。 「雪か」 そう言い彼は雪を手の平に掴んだ。それはすぐに消えてしまう。 ――俺の心ももしかしらこれくらいなのかもな 少女に対する想いの中、それを認めてしまう恐ろしさ。目をそらそうとする自分。 彼はそんな自分を雪の儚さと変わらないのだと思う。 彼がうつむき地面を見つめる。そのとき、彼の視界に光るものがかすった。 そちらを見るとそこには鍵があった。そこは、先程アルルが座っていた場所だった。 ――あいつ 彼は少女の事を思い出し、その鍵を拾った。そして、それを握ると彼は公園を出た。 しばらく歩くと少女の家が見えてくる。その扉の前で空を見上げで微動だにしない少女がいた。その表情はとても嬉しそうに微笑んでいた。 その愛らしさはどこか天使という存在を彼に思い浮かばせた。 「…………」 彼は一瞬、言葉を失った。 しばらくすると少女は動いた。家に入ろうとしているのだろう。コートのポケットをパタパタとしている。 しかし、目当てのものは彼の手の中にあるので見つかるわけも無く、彼女は遠くからでも分かるくらい慌てた動作で服を叩いたりしていた。 ――あいもかわらず、か…… 彼は自然と微笑を浮かべた。人がそれ見たら、あまりの美しさに動作を止めるのではないだろうか。 それ程、自然とこぼれた美しい笑みだった。そう、天使のようなそんな微笑。 「アルル!」 彼は少女の名前を呼ぶ。彼女ははっと振り向く。 「シェゾ!」 彼女は驚いたという顔をして彼に振り向いた。そして、すぐに不思議そうな顔をした。 彼は手にとるように伝わる彼女の思考を読み取った。 彼は彼女のすぐそばに行くと彼女が何か言うより早く手を開いて彼女に差し出した。 そこには公園で拾った鍵があった。 「あっ!?」 彼女はそれを見て、手を口に当てた。 「……えへヘ、ありがとう」 照れたように笑いその鍵を受け取った。 「まぬけ」 彼はからかうように言うと少女はちょっと怒った顔をして言った。 「何だようっ 誰にだって、こうゆうことはあるじゃんか!」 「お前くらいだろう。たくっ、人に手をかけさすんじゃねえよ」 ――うそつき 彼は心の中で自分に言う。 ――本当はこいつと一緒にいたいくせに。 どこか責め立てるように。そんな自分の感情を、そしてそれとは別に揺り動く自分の感情を止められなくなりそうになり、彼はすぐさまに去ろうとした。 「ねえ、シェゾ。この雪、積もるかな?」 少女は彼に向かって聞いた。 その顔は上を向いている。彼もそれを追うように上を見る。 空は薄い灰色の雲に覆われ、白銀の粒が彼等に落ちてくる。彼はその一粒を自分の手の平に乗せる。 ふんわりと落ちてきた雪は彼の手の中ですぐに消える。 「これだったら、積もるんじゃないか」 「ほんとう!」 彼女はぱっと嬉しそうに笑い、彼を見る。 無邪気に子供のように笑うとその場をくるくると回り出す。 「積もったら、皆で雪合戦とかしたいな! 後、雪だるま作ったり!楽しみだなあ、ねっ」 くるくると笑いながら回りながら少女は言う。そしてぴたっと止まると最後に彼に向かって言う。 「ああ」 話を聞いていたのか、どこか生返事で彼は頷いた。 ――天使 その言葉を再び、彼は思い浮かべた。 無邪気に回り、本当に嬉しそうにしている。 子供のように。それでいて、何一つ穢れが無いかのように思わす。 白銀の粒が彼女を彩るようにまとわりつく。 それがよりいっそう、天使という言葉を連想させる。 ――守りたい 確かな思いがそこにはあった。 ――俺とこいつは違う これ以上ここにいると感情が止められなくなると彼は思ったのだろう、少女に向かって一言いうとさっさと呪文の準備をした。 「じゃあな」 「えっ!」 彼女は手を彼に伸ばした時、そこには微かに積もっていた雪が彼の唱えた呪文により舞っていた。 その中に彼はいない。 「シェゾ……」 寂しそうに呟く、少女の声が舞い落ちる雪の中に残る。 彼は再び街にいた。その手には当初目的とした魔法薬等があった。 そう、彼は最初、街に魔法薬など、足りない物を買いに来ていたのだが、街の雰囲気にふっとぶらぶらとしたくなっていたのだ。 彼女の事を思い出して。 そして、彼の荷物の中には彼が求めていた魔法薬とは全く関係の無いものが一つだけあった。 HAPPY CHRISTMAS
結局その一言だけしか書けなかった。 何かを渡したいわけでも、この気持ちを伝えたいわけでもない。 ただ、あいつを守りたいという気持ちがあることがあの時はっきりと分かった。 そのためにだったら俺自身があいつを傷つける事も許さない。 今はただそれだけでいい…… 〜FIN〜 |