とある日常
風月 藍



 私立魔導学園
 ――幼等部から大学部までそろった超マンモス学園。
   スポーツ、進学、双方において多くの実績を持ち、充実した環境を持つ。
   この学園から出たスポーツ選手、研究者などを知らない者は少ない





 ――幼等部

「アルル〜」
 しくしくしくしく、と地面に突っ伏している緑の髪をした人物は数年程前から、この幼等部ではお馴染みものであった。
 別に泣いているから赤くなっているわけではない鮮やかな深紅の瞳。
 端正な顔に平均よりも高いだろう長身の姿。
 異色ながらも瞳と合った金の角は魔族の証である。
 エプロンを外して、黙ってシリアスをしていれば、カッコイイタイプのこの男性が、この学園の理事長であると言って誰が信じるだろうか。
 しかしながら、幼等部の保父も兼ねている、この男性―サタンは本当に理事長であり、この学園の主であるのだ。

「さたんせんせい、またないてますわ」
「ああ、さっきしぇぞとあるるがおままごとしてたから」
「まあ!そうなんですか」
 さめざめと泣いているサタンの様子を見ている、金髪のちょっと背伸びをした喋り方をする女の子と一つ上のクラスの黒髪の男の子がいた。
 女の子―ウィッチは男の子―ラグナスが言ったことばで、すぐに納得した。
「―――――― あっ!?ねえねえ、うぃっちにらぐなす!……るるーせんせーみなかった〜?」
 二人がいつもの事と思い、サタンに背を向けたとき、爬虫類の尻尾と翼をもったドラコケンタウロスの女の子―ドラコがバサバサと翼を鳴らし、上から降りてきた。
「さあ、みませんでしたけどぉ」
「そっかあ……じゃあ、べつのところあたるねぇ〜〜〜」
 ドラコは再び、飛んでいった。


「まったく……どうして、こぉ〜んな、小娘がサタン様のお気に入りなのかしら…………」
 はぁ〜、とため息をついた青い髪をした、美女と言っても良い女性はなにやら、手をぐにぐにと動かしていた。
「ふふーふぇんふぇ〜。ひらひふぉ〜」
 ぐにぐにと動いている手の先にいる黄金色の瞳をした女の子―アルルは聞き取り辛いが、「ルルーせんせー、いたいよ〜」と言う非難の声を保母―ルルーに言っていたりする。
 しかし、いっこうにそれを気にした様子のない、ルルーはただため息をついて、アルルの顔を引っ張っていた。
 まだ、四歳ぐらいの女の子のほっぺは柔らかいくて、いじくってみると面白かったりするのだ。

「おいっ!るるー!!あるるをいじめるなっ!!」
 そこに、たまたま一時アルルのそばを離れていた一つ上のクラスにいる銀髪の男の子―シェゾがやってきて、怒った声でルルーに向かっていた。
「あ〜ら、ナイトちゃんがやってきたわねぇ……
 だけど、先生に対して、呼び捨ては、い・け・な・い・わ・よ♪」
 にっこりと浮かんだ笑みとは別に緑の瞳は全く笑っていなかった。




「るるーせんせー」
 ふふん、と悠然と立っているルルーを見つけて、ドラコは大きな声で呼んだ。
「あらっ、なあに?」
 ルルーは身体を動かした事により気分が晴れたのか、にっこりとドラコへと振り返った。
「うぃっしゅせんせーがよんでたよー」
「あら?何かしら?」
 ルルーはドラコと一緒に、建物の方へと戻っていった。


「くそぉ〜」
 青空よりも深い蒼の瞳に涙を浮かべたシェゾはとても悔しそうに、座り込んでいた。
「だいじょうぶぅ?」
 シェゾがルルーに八つ当たりとも言える拳をうけた(と言っても、彼女は武道も出来るのでしっかりと手加減はしている)おかげで、ルルーのぐりぐりから解放されたアルルはシェゾの顔を覗き込んだ。
 はらり、と亜麻色の髪がぷにぷにしたほっぺにかかる。
「だいじょうぶだ」
 意地でもあり、アルルを安心させる意味でも、シェゾは涙をこらえた。



 その後はクラスの違いもあるため、それぞれ、授業を受ける。
 放課後のチャイムが鳴ると迎えに来る親がいるものは親と一緒に、一人で変える子も珍しいがいる。
 最も珍しいのは保母のウィッシュが祖母のため一緒に夜になってから帰るウィッチであろう。
 と言っても、ウィッシュ達は魔女の一族のため、ウィッシュの見た目は若い銀髪の女性である。

 そして、ちょっと珍しい派であるアルルとシェゾはよく一緒に帰る。
「あるる、いくぞ」
「うん♪」
 そんな仲睦まじい、二人の様子を見て、
「うぉォォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!シェゾのやつぅ〜〜〜〜〜〜!!」
 幼稚園児に本気で妬いてどうする、と突っ込みたくなるロリコン野郎と呼ぶにふさわしい、サタンの嘆きの叫び声が響く。

「また、やってますわねぇ〜」
「ああ、そうだなっ」
「あっ!?だいれんさです!!」
「うそっ!?」
 遅くに親が迎えに来るうろこさかなびとの女の子―セリリと、ドラコ、それと、近所のためウィッシュ達と一緒に帰るラグナス、と一緒にぷよぷよSUNのトーナメントをしながら、ウィッチはしみじみと、にちじょうですわ、と思っていた。







「しぇ〜ぞっ」
 アルルは、きゅっとシェゾの手をつかんだ。
「なんだ?」
 少し赤くなりながらも、シェゾも笑い返した。
「ずっとずっといっしょにいようねっ☆」
 嬉しそうに笑いながらアルルは言ったことばにシェゾはそっぽ向いた。
「しぇぞ?……どうしたの?だいじょうぶ?」
「へいきだ!」
 シェゾの顔を見ようとするアルルから顔をそらしながら、シェゾは大きな声で言った。
「でも、まっかだよ」
 耳まで真っ赤になったシェゾを見て、アルルは心配だった。
 それはただ、アルルのことばに照れているだけなのだが、残念ながら、それに気づけないほどアルルは鈍感であった。







 端から見たら、らぶらぶな二人の幼稚園児。
 絶対世間に変態(ロリコン)と見られるだろう保父。
 格闘技が得意の保母と年齢不詳の保母。
 時には、騒ぎを起こす、一風変わった園児たち。
 そんな、やつらがすごす、私立魔導学園幼等部のとある日常であった。

おわり


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