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――――――出逢わなければ良かったの? あの日、天使一族の「成人の儀」の日。 ボクたちが手をさしのべ導くべき人間…彼らの大地に降り立った日のこと。 ボクたち天使一族では十四の儀式の時まで人界に赴いてはいけないという決まりがある。 前の年に十四を迎えたボクらは、儀式の日に初めて人界に降り立った。姿は人間と全く変わらないように偽り。 なぜなら、天使は成人後でも、死者の魂の迎えや奇跡の時以外は人間の前に姿をあらわしてはいけないから。 人は善悪どちらにも傾きやすい。光にも闇にもどちらにでもなれるのだ。 そしてボクら天使も染まりやすい。だから幼い時でも成人になってもボクらは地上にはめったに降りないし人には必要以上に接しないのだ。 ボクたちを引率する先輩にあたる天使のお姉さんは悪魔の話をまじえながら人界の説明をしてくれた。 それはボクらが幼い時から聞いている悪魔のお話だったりお姉さんの人界での体験談だったりした。 悪魔は魔界に住む汚れた人間よりも穢れたおぞましい存在。 人間に悪い事をそそのかして、その穢れた魂を狩り、魔界へ連れて行ってしまうんだと言われている。 その魂は永久に地の底に囚われ、転生もできないらしい。 そんな血を好む彼らはボクら天使の最悪の禁忌で、接触も魔界に行くことも許されない。 皆は誰もそんなことを望む天使はいないとよく笑う。けど、ボクは自分で見てもいないのにそんな風に教えられたことを鵜呑みにしてよいのか、確かめたいと思ったことがある。 お姉さんも皆も顔をしかめてとても嫌そうに悪魔の話をする中、ボクは皆のように悪魔の人を嫌いになれずそんなにも簡単に嫌いになれる彼らを不思議に思いながらその中にいた。 ボクは悪魔の話を嫌悪を込めて話す声がイヤになり、お姉さんが目をそらして森を眺めていた。 すると、ウサギのような耳と小さな黄色い体をした不思議な生き物が森に入っていくのが見えた。 ボクはすいつけられるように皆から離れその生き物を追いかけていた。 不思議な生き物を見失い、気がついたら皆からはぐれて見も知らぬ森の中で一人になっていた。 何とか森から出ようとしたのだけど逆に迷ってしまい、どんどん時間が過ぎていくにしがたいボクは心細くなり不安のあまり泣き出してしまった。 そんな時、ボクは彼に出逢った。 月光の輝きをした銀髪、凍った海のような蒼の瞳に、どことなく淋しさをただよわせた男の子。 シェゾは優しかった。ほんの短い間でも彼は冷たく見えて人から離れて接しようとしているけど、本当は不器用で優しい人だと分かった。 でも、彼は天使じゃないから本当はボクはあんな風に話しをしちゃいけないんだ。 それでもボクは彼がまとう孤独を含めて彼に惹かれた。 ひとめぼれ、ってこうゆう事なんだと思った。 触れちゃいけないそう解っていてもボクは… 正体を知られちゃいけない、そう思った、なのに… 再び現れた不思議な生き物を追いかけて、大地の活力があふれる、まるで聖地のような場所に行ってしまった。 ボクはあふれる力を制御できず、翼までも開いてしまった。 そしてシェゾはボクのその姿を見てしまった。 ひどくショックを受けた彼にボクは自分が天使である事を告げた。苦しかった、たった一言が。 ボクは痛いと叫ぶ心に耐えながら彼に別れを告げて何事もないふりをして皆と天界へと帰っていった。 もう二度と会うことはないだろう。ボクはそう思った。 けど、ボクらは再びであった。あの場所で。 導かれるようにあの森の最奥、大地の活力あふれるあの場所にボクはあのの時以来いかなかったのになぜか出向いてしまった。 一歩踏み入れ、あふれくる力、それもしばらくすると落ち着いてくる。 ボクは白い花の中、ただ座りボーとその景色を眺めていた。 淡く光をまとう白い花は彼の髪を思い出させた。 彼の髪は銀で、もっと濃く強い色合い…けど、柔らかい光は同じで、ボクは彼を想い出してしまう。 いつの間にか、ボクは歌を口ずさんでいた、そんな時、 「アルル?」 心に刻み付けられたあの声がボクの耳にふれる。 反射的に振り向いた先に彼がいた。ボクは呆然とする彼を見つめ目を見開いた。 「シェゾ…」 呟きがもれた。 ボクらは秘密の逢瀬を重ねることになった。 彼はボクが天使だと知っている。ボクは彼に天使について話して、お休みの日にあの場所で、幸せな一時を過ごしていた。 「なぁ…あ、悪魔については、天使の間でどう伝わっているんだ?」 どこか緊張した声で彼はボクにたずねた。 やっぱ、人間の間でも悪魔は恐ろしいものと伝わっているのかな。 ボクはそんな風に思いながら、ボクらの間に伝わる話をした。 「…でもね」 だんだん硬くなる彼の表情を見ながら、ボクは言葉を続けた。 「会ったことがない人たちを他人から聞いた話だけで悪いものだなんて思うことは違うと思うんだ。 皆は悪魔一族のことを話すことさえ嫌がってるよ。 けど、どうして話しをしたことがない人たちをそんなに悪く言えるの? 本当にヒドイことしかしてないの? ボクには、皆みたいに彼らを決めることができないんだ」 変かな?とボクは抱え込んだ膝に頭を乗せて、驚きで見開いた彼の蒼い瞳を眺めていた。 「い、いや。…………考え方は人それぞれだろ」 慌てて首を振り、彼はどことなく嬉しそうにそう言った。 「……本当はね、人間ともこうしちゃいけないんだ」 ボクの言葉にハッと彼の表情が強張る。 「でもね…ボクは…… ボクは、キミが好き。初めて会った時からずっと」 彼はただ黙ってボクをみつめる。 ボクはいつも肌身離さず身につけていたチョーカーをはずす。 黒の丸い革紐に小さな白金の十字架。革紐もずいぶんとボロボロになっている、ボクの宝物。 「アルル?」 ボクが手の平においたそれを見つめていると、彼は訝しがってこちらを見た。 そんな彼の首に、ボクは手を伸ばした。 「お、おい」 少し慌てたような声をムシして、ボクは彼の首にそれを巻きつけた。 「できたっ」 「できたって…あのなぁ…」 ボクが離れると彼は呆れたように文句を言おうとした。 けど、それをさえぎってボクは言葉を続けた。 「どんなことがあっても、ボクはキミが大好き。 それはその証拠」 いつばれても、戻されても、おかしくない。…彼の記憶が消される事だって…… 真剣なボクを見て、彼は口をつぐんだ。 「それね、ボクが天使の力を初めて制御した時に両親からもらったの。 ボクがただ子どもじゃなくて、いつか人界に降りる天使の卵として、本当に認められた大切な思い出の物」 「なっ…!?」 そんな大事な物を…という感じにシェゾは驚いた。 もらえない、と返そうとする彼にボクは首を振った。 「だからキミにあげるの。キミを愛しているから、だから…」 引き離されても、ずっと変わらない気持ちだから… 仮定でも、引き離されるという事を考えるととても辛かった。 ボクは泣きそうな顔でもしてたのかな。 シェゾはぎゅっとボクを抱きしめてくれた。 彼も同じことを考えてたのだろうか。抱きしめる腕からかすかな震えが伝わってきた。 別の日。 「アルル、ちょっと目つぶれ」 シェゾの言葉にボクは何だろうと思いながら目をつぶる。 すると、「ひゃっ」冷たい感触が肌に触れた。 「いいぞ」 彼の言葉に目を開けてボクは感触がした場所、胸元に顔を向ける。 そこには、金色のチェーンの先に銀の六芒星がついたネックレスがあった。 「うわあ…!」 キレー。 彼の髪と同じ銀にボクの瞳と同じ金。それが嬉しかった。 「この前の礼だ」 そっぽ向いて照れ隠しする彼がぶっきらぼうに言った。 「オレは親のぬくもりなんて知らん。だからお前のように己の大切な物なんてのも無かったから渡すなんてこともできない。 それは町で買ってきたやつだ。 だが、それに俺も誓おう。お前と同じように」 恥ずかしいんだろう。そっぽ向いているのに耳まで真っ赤だからそれがわかる。 くすくすくす…… 嬉しさと可笑しさにボクは笑いをガマンできなかった。 シェゾは不満そうに、ちょっとスネて「笑うなっ」と小さく叫んだ。 「だってぇ〜」 クスクス…とボクは笑いながら無理だよっと言う。 …この幸せがいつまでも続くといいな。 そんな願いが強くなる。 だけど…それは……叶わなかった。 突然シェゾの表情が硬くなる。 「どうし…っ!?」 どうしたのかと問おうとしたボクは、彼の視線を追い言葉をつまらせた。 「アルル・ナジャだな」 長い金髪が鮮やかに輝く男は静かにボクを見据えた。 その手には、太陽と月が刻まれた翼をのせた杖。 それを見た瞬間、ボクはボクの罪がばれた事を知った。 「あいつらは…」 「異端審問官だよ」 隣で目を見開く彼にボクはかすれた声で告げた。 ――異端審問官 禁忌を犯した者などを連行・断罪をする天王様(人間は神と呼ぶね)直属の天使たち 力、武術、知恵、全てにおいて秀でているエリート 普通、彼らは二人一組で行動をする。実際、今ボクの前にいるのも長髪と大柄な男性の二人組だ。 「汝、罪犯し者。己が罪心得ているな。上にて裁決を行なう。我らと来よ」 杖をボクに突きつけ長髪の審問官は静かに告げた。 わかっているのに、ボクは動けなかった。 ぽんっと肩に手がおかれる。ビクッと震えボクはやっと身体が動かせた。 肩におかれた手に力が加わり、ボクは後ろに下げられた。そして、ボクと審問官の間に彼は剣呑な雰囲気で割ってはいる。 |