ある日の午後
風月 藍


ある日の午後。
宮廷内にある木陰で一人の女性が本を広げていた。
つややかな黒髪がそよ風にかすかにゆれ、おだやかな時を刻んでいた。
ひらかれた本は少し古そうで、使い込んでいる様子がある。

草を踏む音に女性は顔を上げた。
木漏れ日に緑の眼を細めると、音の主である一人の男性を見た。
「王。
 どうしたのですか?」
男性は女性のそばに腰をおろすと、肩をすくめた。
「別に。
 ただ執務の合い間をぬい、休みにきただけだ」

「何を読んでおる?」
 女性の手元にある本に目を向け、男性は問うた。
「先生の……フィンダル先生の御本を」
「…………そうか」
 寂しそうな、どこか遠い眼をして、女性は答えた。
 男性はその言葉に、同じように遠い眼をして、何かを思い出しているように、黙り込んだ。

「私はまだ学ばないといけません。
 助言役としてのことや怪異のこと、他にもたくさんのことを」
 女性は静かに一人呟くように言った。

 しばらく、二人の間に沈黙が流れた。

 ガサッ

 再び、草が触れ合う音がする。ひょっこりと茂みから頭をだしたのは柑子色の毛並みをした一匹の狐であった。
 狐は茂みからでてくると顔をあげて男性を見る、そしてゆったりとした足取りで女性に近づく。
「チャズ。どこまで遊びに行ってたの?贈り物までつけちゃって」
 クスッと笑い、女性は近づいてきた狐の耳元についた葉っぱをとりはらった。その温かな手に狐は目を細めて嬉しそうにする。
 面白くない顔をする男性をチラリとみて、再び目を細めて、女性のひざの上へ頭をおき、穏やかに眠りへとついた。男性をみた姿はまるで優越感を感じているような感じで、男性は更に顔をしかめるのであった。
「あいからずな狐め…」
 ぼそっと呟く、男性に女性はどうしたのかときょっとんとして見つめると、なんでもないと男性は首を振るしかなかった。
 ガサガサッ
「あら、オルビスも一緒だったのね」
 狐がでてきた茂みから、銀の毛並みをした狼のような姿をした怪異―銀目がのんびりとでてきた。その姿に女性はちょっと目を丸くする。
 銀の毛並みのそこかしこについた葉を軽く体をふるって落とすと銀目は女性の隣で体を丸めた。それが当たり前のことのように。
「まだ、生きておったのか」
「ええ、怪異についてはまだ多くは分かっていませんが、普通の獣よりは長生きすることは確かですね」
 銀目をみた男性は狐のときとは違い、すこし驚いたような感じであった。その男性に、女性は懐かしそうに愛しそうに銀目をみつめながら言うのであった。

 それっきり、会話もなく、春のあたたかな日差しが漏れる、木陰で二人の人間と一匹の怪異、一匹の狐の時間は刻まれていく。
 ピンッ
 いきなり、女性のひざで昼寝をしていた狐の耳が跳ね上がった。
「チャズ?」
 女性が本から狐へと目をうつす。遠くからだんだんと足音と声が近づいてきていた。
「王っ!やはりこちらでしたか」
 やってきたのは貴族然とした恰好をした壮年の男性であった。
「どうした?」
 男性が女性を見つめていた顔をあげる。
「どうした、ではございません。もうすぐ会議の時間ですぞ」
「もう、そんな時間か」
 壮年の言葉に、男性は腰をあげた。
「すぐに行く。準備をしておいてくれ」
 壮年に声をかけて、先にいかすとどこか羨ましそうに、うっすらと琥珀の瞳をあけていた狐を見、女性へと顔を向けた。
「ではな、また」
 いつものように言葉をかけ、男性は城の内部へと歩き出す。
「はい」
 女性もいつものように返事をして、再び本へと顔を戻す。

 男性がいなくなると狐は女性のひざから体をどかす。
「チャズってば、いつもミヌス王がいる時だけくっついてくるよね?」
 不思議そうな顔で狐を見る女性に、なんだかちょっとあきれているような雰囲気は狐は、くるりっと体をまいて女性の隣で再び昼寝をはじめるのであった。
「ケチ。ねえ、オルビス?」
 不思議を解決する気がない狐から、なにを考えているか分からない銀目へと目を移して、女性は首をかしげた。銀目に答えを期待しているわけではないので、銀目が首をちょっと動かすくらいしか反応しなくてもいっこうに女性は気にした様子もなかった。

 陽だまりのなか、女性はかわらずに再び本を読み出した。
 まだ、本の半分しかめくられていない。
「今日中に読破する予定だったんだけどなぁ・・・」
 呟きとともにまた一ページめくっていく。




 ―――ある日の午後にみられた光景


〜FIN〜







あとがき。
はい、リングテイルの2次創作です。しかも、魔導と違って、このままじゃ元ネタもよくわからない。
しかも色々と妄想はいちゃってます(笑)
リングテイル、はじめは表紙に引かれて買ったのですけど、中身もなかなか。最近あまりみられなかった直球というか、世界がとっても濃いというか。派手じゃないところがまた良い。そんな感じです。
2次創作とかあったら面白いなぁ、と思ったのですが、感想文くらいしか見つけられませんでした・・・小説の2次ってやっぱ難しいよね。というかリングテイルの・・・、やりどころないもんなぁ・・・・・・。リングテイルの雰囲気を壊さずやるのなんて、ムリ。というわけで、自分でやってみようと思ったはいいけど、まるっきり出来なかったので、あきらめて妄想文にすることにしました。
というわけで、以下は今回使った妄想的設定ともとのやつの簡単な説明。

◆リングテイルの単語とか簡単な説明◆
怪異・・・リングテイルの世界にいる一つ目の獣。化け物とか言われもしょうがない存在。人を襲う。
銀目・・・狼の習性と姿をもっている怪異の種類のひとつ。
女性・・・リングテイルの主人公である少女マーニの成長した姿のつもり。王の助言役という役割を担う魔道師。
男性(王)・・・ミヌスという名前の王様。1巻「勝ち戦の君」に登場。軽薄王だなんてもう呼ばせません。
フィンダル・・・マーニの師匠であり憧れの人。もともとのミヌス王の助言役の魔道師。物語はマーニが彼の弟子となり動き出す。
オルビス・・・銀目。1巻に登場。2巻「凶運のチャズ」4巻「魔道の血脈」にもチラリと登場。もとはフィンダルの怪異だった。
(チャズ)・・・2〜4巻の登場キャラで、はるか昔の盗賊である。狐の姿になることができる。今回の狐とは別人。過去に飛ばされたマーニと出会う。

◆妄想的設定◆
マーニ・・・20代のイメージ。おてんばな少女から一人前の女性(でも、ちょっと幼さがある)そんな感じ。恋愛よりも勉強な思考回路。未だにフィンダルをひきづっている。
ミヌス王・・・ちょっとマーニのことがきになっている。でも恋愛感情かどうか少し戸惑いつつも受け入れはじめてる。ひっつきすぎのチャズがあまり気に入らない。
チャズ(狐)・・・怪我をした所をマーニに拾われる。マーニが出会った盗賊チャズが変化する狐と同じ毛色だったのでチャズという。マーニが気になるミヌスにあてつけのように割り込むのが趣味。
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