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星がぽつりぽつりと空に輝き始めた宵の時間。 僕は村のはずれをボーと歩いていた。 凍え始めた砂漠の空気はひんやりと気持ちよかった。 「〜〜〜♪」 歌が聞こえた。 ――人?こんな時間に? 砂漠の夜に家を出る人はあまりいない。 僕だって、めったにこんな砂漠がすぐそこの村はずれに出ることはない。 僕は声を辿っていった。 座るのにちょうど良い大きな岩に誰かがいた。 声はその人影の方向から聞こえているから、きっとその人影の人が歌っているのだろう。 サクッ 僕が砂を踏む音に人影が振り返った。 「誰っ!?」 声は高い女の人の声だった。 「あ、あの……」 僕は何を言ったら良いのか、わからなくて、言葉を詰まらしていた。 「…………この村の人?」 女の人が聞いてきたのに、僕は「はい!」とブンブンと頭を縦に振って答えた。 「夜の砂漠は冷えますよ」 何となく、近づいていくと、女の人が薄着でいるのがわかったので、僕はそう言った。 「そうね……」 女の人は僕に手を差し出してくれた。 僕はその手をつかんで、女の人の隣に座る。 「あの……貴女は旅人ですよね?」 女の人は見た事ない人だったから、僕は確認するように尋ねた。 こんな小さな村だから、村そのものが家族といって言いぐらいで、村の人で知らない人はいないのじゃないか、という感じだ。 だから、僕は女の人が旅人だとすぐに思った。 「そうよ」 「どうして、こんなところで歌を歌っていたのですか?」 僕は不思議に感じていた、そのことを聞いた。 女の人は空を見上げて、少しの間黙り込んだ。 「……空、綺麗ね」 女の人はなぜか僕の質問に答えないで、そう言った。 僕も女の人と同じように空を見上げた。 だけど、そこにはいつもと変わらない夜空が広がっていただけだった。 「そうですか?いつもと変わらないですよ」 僕は感じたままに言った。 「そう……あなた達はいつものこの空と一緒だから、そう思うのでしょうね」 女の人は、微笑んだ。 「貴女が……貴女がいた場所は、違う空だったんですか?」 どこか、哀しそうに見える微笑に僕は胸が痛かった。 「……さあ。あの場所で、空を見上げる事はなかったから……」 女の人は、わらった。 まるで、自分自身を嘲笑うみたいに。 「もう、夜も遅いわよ。あなたみたいな子供は寝る時間じゃないかしら?」 ほんの一瞬だけの嘲笑はすぐに意地悪な笑いに変わった。 「……………………」 僕は黙って、岩を降りた。 実際に、空には星がとてもたくさん輝いていて、夜の闇色も深くなっていたので、だいぶ時間が過ぎているのがわかるからだ。 「さようなら」 僕は、女の人にそう言って、家に歩いて行った。 女の人が僕に軽く手を振ったのが見えた。 「認められたくて 人と違うこと何かしようと思った 遠い遠い空の上歩きたくて 白い翼探してた 遠い 過去の夢を見ていたね 誰からも起こされたくなかった 大事な思い出を夢の中で 永遠に抱きしめていればよかった どこを探してもあなたはいなくて どんなに傷ついても癒す術はなくて 「どうしたらいいの」と 見えない誰かに問いかけていたよ 私に気付いてもらいたくて 歌を歌い続けてた 深い深い海の底にしずみたくて 壊れた船探してた 誰にも見つけてもらえなくて 寂しい時を独り過ごしていたね 強い振りして強がって笑ってた 心の不安悟られないようにと 空を仰いでも 鳥は見つからなくて 海の底に行こうとも 船は壊れなんかなくて 誰かに頼ることもなく大声で泣いていたよ 人と違うこと 何も出来なくて 歌を歌っても すぐに声は枯れ… 硝子のような 儚い心は泣いてた 強いはずのあなたは まるで硝子のようだった あなたは言っていた 強く強くずっと言い聞かせてた 私は泣きながらそれを聞いてたね 夜にとけ込んでしまいたくて 夜を身にまとってた 星を見つけても 願い方知らなくて 見えないのに存在するものを 全て受け入れて 独り切なく苦しんでも何も出来ずにいたから 認められたくて 人と違うこと何かしようと思った 遠い遠い空の上歩きたくて 白い翼探してた 私に気付いてもらいたくて 歌を歌い続けてた 深い深い海の底にしずみたくて 壊れた船探してた 流れ星流れてたのに 私は願い方知らなかったから 何も願えなかった 何も願えなくてよかった 硝子のような 儚い心は泣いていた 強いはずのあなたは まるで硝子のようだった 強いはずのあなたは まるで硝子のように 儚く 儚く 泣き止む術を知らず 泣いてたよ…」 僕の背中から聞こえた哀しい歌が聞こえた。 僕は振り返れずにただ、じっとそこに立って、その歌を聞いていた。 歌が終わると、僕はふり向いて、大きな声で女の人に言った。 「それが……!それが、答えなの!?」 僕が質問した『歌っていたわけ』の答えのようで……どちらかというと、歌を『歌い続けるわけ』のように僕には思えた。 「貴女は……歌を歌い続けるの!? どうして!?」 なんだか、よくわからない激情に僕は叫んだ。 「私が……何も持っていないから…… 特別な何かを持っていないから…… 私は、詩詠いだから……」 彼女は今にも消えてしまいそうな微笑と声で答えた。 不思議な夜に出会った旅人は「詩詠い」 今も僕の中に鮮やかな残像を残している。 END |