花の贈り物
風月 藍


Sunday,May Fifteenth

「ははうえ〜」
 あたたかな昼下がり、広い屋敷の奥にある部屋に少年がやってきた。
 母親ゆずりの柔らかな金髪を揺らし、父親ゆずりの碧玉の瞳を輝かして扉を開けた四、五歳の少年を部屋の主はあたたかく迎えた。
 少年は部屋に入り、母親の前でなにやらソワソワとした様子で身体を動かしているが、思い切りがつかないのか、それ以降の行動にでれずにいた。
「どうかしたの、ケミス?」
 母親の声にモジモジとしていた少年は背中の後ろにやっていた手を差し出した。
「これっ!」
 差し出した手には、薄い桃色の花弁を重なりつけた花が一本。
「きょうは"ははのひ"でしょ。だから、はい♪」
 まぁっ、とうれしそうに女性はその花を受け取った。
「きれいね」
「でしょっ」
 淡い色が優しさを感じさせる花に、母子はお互い微笑みあった。

「でも、このままじゃすぐに枯れてしまうわね…」
 もったいないわねぇ…とつぶやく母親に少年は満面の笑みを浮かべて、だいじょうぶ!と大きく言った。
「ぼく、ちちうえにあたらしいジュツおしえてもらったんだっ」
 少年の言葉は少し場違いのような気がしたのか女性は一瞬きょっとん、としてその後何かに思い至った。
「それじゃあ、お願いね」
「うんっ!」
 母親が差し出した花に手をかざし少年は呪文を紡ぐ、遥か古代より続く今ではほぼ失われてしまったエンシェントワードを。
 言葉の力は空気をふるわせ、輝きが一輪の花を包む。
「プロテクト」
 発動呪文を少年が唇にのせると、輝きはいっそう強くなり、花の中に凝縮されていった。

「……ありがとうケミス」
 その魔法を見守り母は息子に笑いかけた。
「えへへ…」
 少しほほを染めて、少年は照れていた。
 そんな中、コンコンッと扉が叩かれる。
「奥さま、こちらに坊ちゃまいらっしゃいませんでしたか」
 扉越しの声は女性のもので、どうやら少年を探しているようだった。
「えぇ、いますよ」
 お入りなさい。女性が扉の向こうにいる人物に告げると、扉が開き三十代ぐらいの召使いの格好をした女性が入ってきた。

「失礼いたします」
 しっかり四十五度のおじぎをし、女性は夫人からそのそばにいる少年へと目をうつした。
「坊ちゃま。
 外に行かれた後は消毒をなさっていただかないと」
 まったく、と少し呆れたような困ったような声を出す。
「ささっ、その泥だらけのお身体を洗いに参りましょう。旦那さまがもうすぐお帰りになられますよ」
 手を握られていた少年はメイド頭の女性が言った言葉に目を輝かした。
「ほんと!?」
「ええ、先程ご連絡がありましたので」
「今回は早いお帰りなのね…」
「はい。思っていたより早く仕事が終わりになったようです」
 夫人も初めて聞いたのか少し驚いたようであった。
「今度は何の魔法教えてもらえるかなっ」
 わくわくっと少年は喜びを抑えられない様子で言った。
「ミセス・ノリス。はやくいこーっ」
 メイド頭に声をかけ、少年は部屋を飛び出していった。
「はいはい」
 少年の後から、夫人に「失礼しました」と礼をした後に部屋を出て行った。


 うららかな午後の日差しが降り注ぐ部屋。
 柔らかな微笑みを浮かべた部屋の主は少年たちを見送ると、手に持った花を入れる為の花瓶を探し始めた。
 しかし、ちょうどよい花瓶は特に見当たらず、仕方がないといった風に部屋の隅にある粘土を手に取った。
 女性がつぶやく。紡がれたのはエンシェントワード。
 ふあ…っ
 陽光とは別の光が粘土を取り巻き、一つの一輪差しが粘土と入れ替わるように女性の手にあった…
 上出来とばかりに、女性は微笑み、その花瓶に花を挿して窓際の机に置くと、夫を迎える為、彼女も準備を始めるのであった。






 変わらない日常にほんの少しのアクセント。  一輪の花はガラス越しの陽光をいっぱいにうけキラキラと輝いていた。


〜fin〜










あとがき
母の日に書いていたんです。でもアップする暇なく母の日が終わってしまいました。
いつも、母の日って祝いそびれます。ごめんね、かあさん。
でも祝いたい気持ちはあるんだよーっ、とばかりにこんなものを書いてたんです。
そうそう、一応キャラクターの設定が少々あります。こんな一発もんですがw
以下はそれです。


<ケミス・アルマージ>
男@金髪碧眼@ウィザード(魔法使い)の名家の息子@一人称:ぼく(幼い時)、私(わたし/大人になると)

<アネーゼ・アルマージ>
女@金髪緑眼@アルマージ家に嫁にきたアルケミスト(錬金術使い)の娘@ケミスの母親・一人称:私(わたくし)

<ミルケネス・アルマージ>
男@銀髪碧眼@アルマージ家当主@ケミスの父親でアネーゼの夫@ウィザード@一人称:私(わたし)

<ノリス・コルフット>
女@黒髪緑眼@アルマージ家のメイド頭@通称ミセス・ノリス@ケミスには第二の母親的存在

ウィザード:魔法を扱う人間のことをさす。魔法は四大元素を属性とし、エンシェントワードといわれる古代の言語によって発動をさせることができる。
アルケミスト:魔法使いの一種である。その中でも、あらゆる元素から構成を起こし、物質をつくる。ただし、元素は固定ともいえる。土からは土で作れるものしか作れないということである。
inserted by FC2 system