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おばあちゃんがいなくなった。 わたしをおいて、消えてしまった、逝ってしまった…… 大好きなおばあちゃん。 小さな頃から甘えてばかりいたわたし。 家を出て、ふらふらと道を歩いていた。 たどり着いたのは近所の公園。 小さな森に囲まれるようにある公園から聞こえる小さな子供たちの声はわたしには辛かった。 おばあちゃんに買ってもらったアイスクリームを食べたベンチ、 いっしょに日向ぼっこもした。 砂場で遊んで泥だらけになった私をおばあちゃんは優しく笑ってみていた。 おばあちゃんとの思い出がいっぱいにあふれてくる。 まるでピントがボケた写真のように周りの風景が見えて、夢の中をふわふわと歩いているみたい。 わたしは何の意識もなくただ歩いていた。 いつのまにか公園を抜けて森の中に来ていた。 少しずつ緑が多くなっている木々の間から小さな光がいくつも地面に落ちてくる。 だけど、そんな、いつもならいいなと思う風景さえも私にはどうでもよかった。 することもなしにただ森の中をさまよう。 何か違和感を感じた……と思ったときには私の体は地面にうつぶせになっていた。 石かな……つまずいたんだろうな。 ボーとそんなことを思った。うつぶせはちょっと苦しいので横に転がってあおむけになった。 起き上がる気はしない。 木々の枝のすき間からもれる光を見つめながらまぶたを閉じた。 何もする気がしない……このまま『永遠の眠り』でもいい。 おばあちゃんのいる場所にいける…… ………………………………? 何か物音――鳥が飛ぶような音――が聞こえて、なんとなく目を開けた。 一瞬、こもれびの光を人影が……翼をもった影がさえぎったように見えた。 けれど、あいかわらず、ぼやけた夢のような感覚とほんとにかすかで瞬きのような一瞬だったせいで、その不思議できみょうな影が本当だったのか分からない。 ただ、雪のように真っ白な純白の羽根が、雪か散る桜のように何枚もまいおちてきた。 …………と……り……? わたしは自分や周りの地面に落ちてくる、落ちた羽根の持ち主を思い浮かべた。 けど、なんとなく違うような気がする。あの影のせいだろうか。 「何をしているんだい?」 男の人の声が聞こえた。そして、だれかがわたしをのぞきこんだ。 「だ……れ……?」 わたしよりも年上――けっこう上じゃないかな?――の青年と呼ばれる感じの男の人にわたしは小さく呟いた。 男の人はクスッ、と小さく笑うとわたしのとなりに腰かけた。 「…………まるで、抜け殻だね」 ヌケガラ……そうかもしれない。 わたしの呟きに答えずに言った男の人の言葉にわたしは思った。 「何があったんだい?」 青年の質問になぜか、わたしは答えていた。 「おばあちゃんが……大好きなおばあちゃんがいなくなったの。 ……もう二度と、会えないの。死んじゃったから…… いっぱい、いっぱい、遊んでもらったのに。 まだ、わたし、ありがとうって言ってないのに」 棒読みなわたしの言葉。でも、何か自分の中でふくらんだ。 「君のおばあちゃんはきっと幸せだったよ。 君が一緒にいてくれた。 おばあちゃんにとって、それがありがとうって言われるより、何よりも幸せなことだと思うよ。 でも……」 青年お声は優しかった。おばあちゃんが話すときと同じようにとても優しかった。 そのせいなのか、わたしは青年がとちゅうでだまった先が気になった。 「でも?」 「……君がそんな状態だと安心できないと思う。 君も我慢してばかりじゃ駄目だよ」 何か、さっきふくらんだように、何かが引っかかった、けどよく分からない。 「……何が言いたいの?」 「泣きたいのに泣けない、そんな顔をしてるよ。 吐き出してしまいな。辛い事は全部」 っ!? 男の人がおばあちゃんと同じ、優しい笑顔で言ったその言葉にわたしのふくらんだ何かがしょうげきのようなものを受けた。 「え?」 顔に何かつたう。 ゆっくりとその伝う部分に手をふれると、それは涙だった。 わたしの中の何かが、はれつする。 あ…… 「ああああああああああああああ……!!」 森にわたしのさけび声がひびいた。 おどろいた鳥の羽音までもかき消すぐらい大きくさけんでいた。 無意識に出たさけび。風景が暗くなる。 気がついたら家にいた。 自分の家の自分の部屋のベッドにわたしは寝ていた。 「ゆめ?」 少しかすれているわたしの声。 クスッ 笑い声が聞こえたと思った。 開いているまどからやわらかい風がかみをゆらす。 はっ、とまどのほうを見ると、白い一枚の羽根が部屋に入ってきた。 純白の羽根。雪のような羽根たちと同じ羽根。 「……夢じゃないんだ」 しっかりとした言葉でわたしは呟いた。 純白の羽根。天使の白い羽根。 あの人影も気のせいじゃない。 わたしが見る風景はもう、ぼやけてなかった。 END |