王女さま、グラリオンにて
風月 藍


 朝、少女はめざめると見慣れない天蓋にパチクリと何度も瞬きをした。
「ああ、そっか・・・」
(私、グラリオンに来たんだった・・・)
 マリエヌ・リム・ラ・アーリュシスは療養中の大使に代わり親善大使として隣国に来ている自分の状況を思い出す。
 寝台から起き上がりふっと辺りを見回すと止まり木で眠る一羽のふくろうがいた。
「あれ、珍しい」
(いつもなら森にばかりいるくせに)
 無理やりついてきてもらったふくろうにそんなことを思いながら少女は一通りの着替えをすませる。
 初日にいきなり現れた女官たちが手伝おうとしたときは驚いたが一度断ったおかげで自国でいたときとかわらず朝の時間はすごせるようになったものだ、と少女が思い返しているとコンコンと扉が叩かれた。
「はい」
「私、アイリーン」
 返事をする少女に小さな女の子の声が扉越しに言った。それを聞いて少女は扉を開けた。
 扉の側には10歳前後の女の子が一人立っていた。
「どうかしました?アイリーン様」
 少女は隣国グラリオン第三王女に笑いかけた。
「マリエヌと一緒に遊びたくて呼びに来たのっ」
 にっこりと女の子は嬉しそうに笑った。
「そうなんですか。ありがとうございます」
 女の子と同じ視線になるようにかがんで言う少女の手を握り、女の子は「行こっ」と少女を引っ張る。
「はい」
 断る理由も無い少女は眠るふくろうに「行って来るね」と言い部屋を出て行った。

 少女と女の子の二人は広い庭園を抜け王宮の奥にある花園にいた。
「マリエヌはとっても器用ね」
 難しい花冠をつくる少女に女の子は感心の声をあげながらキラキラと少女を見る。
「そうでもないですよ」
「そうでもあるよ!」
 謙遜する少女に女の子はブンブン首を振って一生懸命に否定する。そんな女の子をかわいいなあ、と思いながら少女は出来上がった花冠を少女の淡い金の髪の上に飾った。
 ふわりっとおかれたそれに女の子は嬉しくてしかたがないという顔をした。
「それにマリエヌは優しいわ」
 大好きと身体全体で語る女の子。実際、アイリーンは昨日ついたばかりの少女とであったその瞬間に少女のことが大好きになり以来ついて回っていたのであった。
 二人の少女が花園で優しいひと時をすごしていた。

「やはりここにいた」
 そう呟いたのは銀髪紫眼の見目麗しい青年。花園の入口から二人の少女をまぶしそうにみていた。

「マリエヌ」
 名を呼ばれた少女が顔を上げ、女の子は少女の服を強く握り上をにらんだ。
「ギデオン王子」
 青年が少女達を見下ろしていた。
「どうかしましたか?」
 首をかしげる少女に「ええ」と青年はうなずいた。
「本日の夜会の話をしに」
 朝だというのにもう夜の話ですか・・・と言いたそうな少女ににこにこと笑いながら青年は続けた。
「今夜は貴女のお披露目ですからね、主役にキチンとお話をしなくてはならないでしょう」
「はあ・・・」
 元来貴族のパーティーがあまり好きになれない小国の王女は小さくうなずく。
「昨日はお疲れのようでしたので今夜はキチンとしませんとね」
「わかりました」
 仕方が無いと思い、少女はうなずく。
「良かった。では、衣装合わせもありますし、行きましょう」
 そう青年が差し出した手を握ろうにも少女の身体は抱きしめる女の子に阻まれて動かない。
「アイリーン様?」
 困ったように見下ろす少女越しに女の子は青年はにらんでいた。
「こわい顔をしていると嫌われるぞ、アイリーン」
 異母兄に笑って言われるのをふくれ面で女の子は返した。
「だって・・・お兄様は私からマリエヌをとっていくんだもん!」
 不満たらたらの女の子はぎゅーっと少女を掴んで離さなかった。
 それを突き放すこともできない少女は困ったように女の子を見ていた。
「けど、アイリーン。マリエヌは私の婚約者なんだよ」
 君のものじゃない。言外にそう言った青年の瞳はどこか冷ややかであった。
「ちがっ・・・・・・」
 違いますっ!!と叫びたかった少女はビクリッ!と大きく震える女の子に驚き気をとられた。
 後ろにいる青年の顔が見えない少女は女の子が何におびえたのかと振り仰ぐと冷たい紫の瞳は一気に溶けて柔らかくなり、少女には先ほどの冷たさなど感じる事ができることがなく不思議に二人をみていた。
「ほら、マリエヌも困っているだろう」
 優しく言う青年に女の子はそっと少女から離れた。
「ご、ごめんなさい」
 誰に対して言ったのか、女の子はすこし震える声で言う。
「いえ、こちらこそすいませんね」
 そっと頭をなでてくれる少女に女の子は顔をあげる。
「明日はもっといっぱい遊びましょうね」
 まるで妹ができたみたいで嬉しい少女は優しく女の子にそう言った。
「う、うん!」
 先ほどのことなどすっかり忘れたように女の子は大きくうなずいた。
 その二人の後ろで青年がため息をそっと吐いた。少女から提案したのだ、それを止めることはできない。困ったライバルができたものだ、というため息であった。

 衣装合わせへと青年に案内されるままに少女はとある一室へと来る。
 本来なら何ヶ月も前に生地選びから始めて作るものであるドレスだが、部屋に入るなり女官達が少女を囲む。
「え、ええ、え?」
「ささ、こちらにどうぞ」
 流されるままに少女は連れて行かれる。そこにはすでに出来上がったピンクというには濃い、やわらかい朱色の生地をつかい、ふわりと花のように裾が広がるドレスがそこにあった。
「これは・・・」
「ギデオン殿下がご用意されたものですわ」
 少女が見覚えのある色に思わず呟くと、女官の一人が応えた。
「さあ、みなさん」
 パンパンッと女官が手を叩くと他の女官達がわっと少女を取り囲みあれよあれよという間に少女は動きやすいワンピースから一転ドレスへと姿をかえるのであった。
「ここが少し長いですね、少々つめましょう」「胸周りなどきつくありませんか?」「腕のほうもつめたほうがいいですわね」
 少女を囲み、女官達の言葉と針が次々と流れていく。

 疲れる衣装合わせに午前の時間はつぶされ、午後の時間は大使が残した資料から親善大使としての仕事におわれ、そして夜はあっという間にきた。

「ああ、やっぱり。貴女には似合うと思った」
 エスコートへとやってきた青年は朱色のドレスをまとう少女に笑いかけた。
「ありがとうございます」
 ドレスのことを含めて少女は頭をさげた。
「けど・・・それだけだと寂しいな」
 唯一身につけていた球形のルビーから翼が生えた首飾りに青年は言う。
「そうですか?」
「うん」
 首をかしげる少女にうなずき、そっと青年は手を伸ばす。
「え?」
 パチッ
 思わず硬直する少女に耳にひんやりとした感触が伝わる。
 パチッ
 驚いている間にもう片方の耳にも何かが止められる。
「あ、あの?」
「見てごらん」
 困ったように見上げる少女に青年は鏡を指差す。
「あっ・・・・・・」
 少女の白い肌の中、桃色より少し濃い珊瑚の薔薇が二つ咲いていた。
「これ・・・」
「あの時は断られたけど、今回はそんなこと言わないでもらえるといいな」
 青年が少女の国を訪れた時に渡されたけど結局返したその品を見つめ、少女は青年にこくんっとうなずいた。
「さあ、いきましょうか、婚約者殿」
「・・・・・・だから違います!」
 何度言っても聞かない青年に、それでも諦めず少女は叫ぶのであった。



お・し・ま・い




あとがき
王女さまにイヤリングをしてやるギデオンのシーンがずっと頭の中にあってそれを形にしたくて書いてみました。
前の部分に妹と登場させたら思ったよりも長くなったので拍手にする当初の予定を変更して普通の形になりました。
製作時間は2〜3時間。
機会があったらまた書きたいです。今度はちゃんとトトを活躍させたい!!!(笑)
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