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紅い戦乱の時が来るよりも昔 ある国の王都は貧富が明確と現れていた 戦乱の序となる混乱が微かに姿を現し始めた時代 それは『悪魔の子』が誕生した時…… 老人の話を聞いた後、町へと戻った私は酒場でその事を考えていた。 すると、いきなり目の前の席に一人の青年が座った。 青年は私に老人の事を尋ねたので私はその事に答えた。物語を聞いたことも。 青年は語る。陽気な人々の声を音楽として。己が見たことのように。悪魔バルベリトの話を。 ![]() 深い地の底…………そんな言葉がしっくりとくる薄暗い荒野に一人の青年がいた。 いや、青年と呼ぶのは正しくないだろう……なぜなら、彼がいるのは人が住む事の出来ぬ悪魔たちの世界【魔界】なのだから。 「退屈だな……」 深紅の髪を掻きあ揚げて、彼は呟いた。 低い声は人が聞いたら畏怖の念を抱きかねない尊厳があった。 「……でかけるか」 彼はそう呟くと姿を消した。 そう、荒野から掻き消えたのだ。飛ぶのでも走るのでもなく、溶け込むように消えた。 それは彼がこの世界にいない事を表している。 「さてと……何があるかな」 【魔界】から消えた彼がきていたのは【人間界】 時に彼等を呼び出す力をもつ者が出るもののその少数に比べて、多数の無力な人々は悪魔にとっては格好の餌にしかならない。 そんなものたちがいる世界。 ただし、そんな事をしているのは人が下級悪魔と基準付けられ、人が上級悪魔と基準付けている彼のような存在には彼が卑しき連中と呼ばれる悪魔だけだ。 下級悪魔たちとは違い、上級悪魔のようなものたちは、人を暇つぶしのおもちゃにするだけ。 彼はとある王都のスラム街の入り口に立っていた。 そして、瞳の色を深海のような深い碧に変えた。 話す声も人の奥底にある恐怖を呼び覚ます尊厳のある声ではなく、普通の男性の低い声にして、スラム街へと入って行った。 スラム街は王都の中でも職を失ったものや世間から爪弾きになった者などが集まった、王都の中でも最も危険な場所。 彼はそれに何か自分を楽しませてくれるような出来事が起きないかと思って入ってゆくのだ。 彼を楽しませるような出来事とは人にとって、面倒な出来事、破滅とも言う時がほとんどである。 彼がぶらぶらとスラム街を歩き奥へと進んでいくと、突然、横道から女が飛び出してきた。 「きゃっ」 「とっ」 目の前に彼がいた事に驚いた女は彼を避けようとして動き、バランスを崩した。 彼はそれを見て、たまたま気が向いたので、女の腕を掴み支えた。 「あ…………あっ!」 ――ありがとう――と言いたかったのだろうが、自分の後ろを振り返って、焦りを浮かべた。 「追いついたぞ。このアマ!!」 女が出てきた横道から、五、六人のガラの悪い男たちが現れた。彼の存在を見ると一瞬、いぶかしんだがすぐに女に向き直った。 その時には彼は女の腕を放していて、女も普通に立っていた。 「………………………………」 女は黙って後ろにじりじりと下がっていた。 彼は面白い出来事に出逢えたかと思い、高みの見物をする事にした。 「さあ、こっちにきな。あんたもいいかげん分かってるだろ」 「イヤよ」 「人がおとなしくしているうちに頷いた方がいいぜ」 「絶対にイヤ!!」 男の一人が少し苛立った感じに近づいてきた。しかし、男の脅すような言葉にも女は頑固に突っぱねていた。 つまらないな、そんな風に彼が思い、別の場所にでも行こうかと足を前に進めた。 しかし、すぐに足は止まった。なぜなら、男たちの一人がナイフを抜き、彼に突きつけて脅しかけてきたからだ。 「おっと、兄ちゃん。そこを動くんじゃねえゼ。あのアマとどうゆう関係かわかんねえからな」 「ちょっと!その人は関係ないわよ!!」 脅しつける男に対して女が叫んだが、そんな事は男たちに関係なかった。 すぐにでもこの場所を離れるのならまだしも一歩さがって見物をするなんて、おかしいと誰だって思う。 「…………脅しか?」 「ああん!あたりめえだろ」 頭おかしいのかというパフォーマンスつきで男が彼の質問に答えると、彼は不機嫌な表情を浮かべた。 ……表情に浮かべただけではなく、行動にも出ていたが。 ガッ! 「ごはっ!」 「な、何だ!?」 彼を脅しつけた男がいきなり吹っ飛んだ。 彼の腕が一閃して顔を叩いたのだが、男たちの中でその動きを捉えられた者はいなかった。 「我の気分を害したのだから、それ相応の対処をさせてもらう」 巻き込まれる形になったのはすぐに自分が離れなかったのが悪いのだが、そんな事は彼には関係ない。 つまらないものだと思い、離れようとしたところを邪魔する事が純粋に彼にとって気分を悪くしたのだから。 癇癪を起こした子供の理屈と変わらないが、彼にとっては当たり前の事であり、悪魔とは大抵そんなものであった。 彼は宣言とともに動いた。走り出した彼を捉らえられなかった男たちは彼が掻き消えたように見えただろう。 ガッ ゴッ ドカッ ガキッィ 一瞬の間に彼は女のそばまできていた。そして、男たちは白目をむいて地面に倒れていた。 「すごい……」 彼は走ると同時に立ち並ぶ男二人を拳で打ち払い、残り二人は吹っ飛ばされた者とぶつかり、彼に蹴られた。 その動きは普通の人では見えない域での動きだけに女も何が起きたか分からなかった。 分からないものの直感的に彼が男たちを倒したと感じる事はできた。 「さっきはほんとにありがとう」 女は机に飲み物を置くと微笑んでお礼を彼に言った。 あれから、彼はすぐにでも他の場所に行こうと思ったのだが、女はそれを引き止めて、ここまで連れて来た。 ここは女の家らしい。 「いや……」 彼は女を観察しつつ、何か遊べないかと考えていた。 女は木の幹のような茶色い髪に薄いすみれ色の瞳で、スラムにいるせいか少し汚れて見えたが、整った顔立ちである事が分かる。 なぜ、男たちに追われているのか、女はその事は話さずに他愛のない事を話していた。 彼にとってもどうでもいい事なので、聞きはしなかった。 彼は女の話から今、国の情勢が乱れている事が分かり、場所によっては戦いなどが起こる可能性がある事も分かった。 彼は次の日、戦いが起こる可能性のある場所に行った。 一発触発のような状態のその場所はいきなり来たよそ者に厳しかった。 しかし、彼には関係ない。 適当に重要そうな場所に入り込むとその場を混乱させるように、彼にしてみれば造作もない事を起こした。 それを敵の策略だと勘違いした事により、戦が起こった。 彼はその戦いを愉快な表情で空から眺めていた。そして、戻る時、昨日の女の事をふっと思い出し、試しに見に行った。 女は彼が来た事に驚いていた。そして、どこか嬉しそうに女はまた他愛のない話をした。 それは彼にとっても最も嫌いな退屈を感じさせるはずなのだが、彼は大人しく聞いていた。 「あら、そういえば、名前を聞いていなかったわ。私はマイア。君は?」 「バルベリト」 彼は答えながら、ふっとある事を考えた。 それは、ちょっとした遊び。 |