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遥か昔、人々が大地と自らを紅に染めた時代 ある、一つの物語が歴史の影で起こっていた ただ一人の老人が知っている 歴史のカケラ 血を求める、狂った魔術師を打ち破りし『悪魔の子』の少女とその相棒の物語を…… カケラを知る老人は語った。『悪魔の子』の少女トリーナと相棒ウィンの話を。 ![]() はじめは小さな出来事だった。どこの国でも人が職にありつけなく、あぶれ始めた。 そんな風に国が少しずつ不安定になり、その事に不満をもつ者たちも出てきた。 そんなときであった。ある国が滅亡したのは…… その国は小さく、混乱が最も激しかった。 国王が突然原因不明の事故にあい、その国の魔術師が国を乗っ取ろうとしていた。 しかし、隣国がそのような行為を許さず、国は滅亡し、その国の領土を他国が争い始め、戦乱が始まった。 長い、長い戦乱の幕開けだった。 多くの代替わりがあり、いつのまにか、何を争っているのか分からなくなっていく。 そのたびに終戦の話し合いがもたれるのだが、まるで何かに呪われているように新たな火種が燃え上がり、戦乱は続いていった。 初めの戦から長い時間が経った時代。それでも、戦乱は続いていた。 戦乱は多くの傭兵たちにとって日々の糧になっていた。 「ここね」 透明感のある紫水晶のような髪の人物はそう呟いた。 古ぼけた、所々に蔓が纏わり付いた屋敷を前にしている声の主は十七、八歳の少女だった。 彼女が腰に下げている普通のものより大きめの剣が女である彼女に違和感を持たせなかったのは彼女のつけている皮の鎧と篭手とは別に唯一見えている髪と同じ紫の瞳の鋭さが原因だろう。 唯一見えているというのは、彼女の左の目が髪で隠されていて見えないからだ。 左の目を隠す髪で半分が見えない状態であっても、彼女の容姿が整った部類に入っている事は誰もが感じる事だろう。 彼女がまとう雰囲気は戦士のものであった。 鋭く冷たいその雰囲気は町に人間が近づくの踏みとどまるだろうというものであった。 しかし、そんな彼女の雰囲気を和らげているものがあった。 それは、彼女の左肩に丸まっている動物。 茶色い毛に覆われた動物は寝ているのか一定の間隔の身体が上下している。 たぶん、大きさがからいってモモンガであろう。ムササビにしては小さかった。 つい先日の事だ。この古屋敷が町外れにある町の主が傭兵を探しに酒場に顔を出したのは。 たまたま、その時路銀が尽きかけていた事もあり、少女は町長の依頼を受けた。 初め、町長は女である事で彼女の事をあしらおうとしたが、町長の護衛についていた腕利きと思われる人物をあっという間に片付けた事により、町長は認識を改めた。 彼は熱心に彼女に対して仕事の事を話し、頭をさげた。 そして、相棒であるモモンガと一緒に今、古屋敷の前に立っている。 少女はすでに開ききった状態で赤い錆で元の色が分からない、固まった門を通り、扉へと歩いて行った。 少女が歩いているというのにモモンガはいっこうに落ちる様子がなかった。 それは少女の歩き方の為なのかそれともモモンガのバランスの取り方なのだろうか。 ガンッ 少女は無造作に屋敷の扉を蹴った。 古びた屋敷の扉は老朽化が祟っていたのだろう、いともあっさりと蝶づかいは取れ、大きな音を立てて前へ倒れた。 中もまた、長年使われていなかったのだろう。倒れた扉に埃がもうもうと舞う。 薄暗い闇の中を女は何事もないように歩いていった。 闇の中を歩く事、数刻、少女の肩に乗るモモンガが闇よりも深い黒の瞳を開いた時、ちょうど彼女はくだりの階段を見つけた。 「きぃ」 「ウィンっ」 モモンガが少女の肩から滑空してくだりの階段をおりてゆく。 少女はモモンガの名前を呼びながら追いかけた。 彼女の履く黒いブーツが石の階段に音を響かす。 少女がウィンを拾い上げて、肩に乗せた時、声が響いた。 「ほぉ、こんなところに女とは珍しい」 階段をおりた先は天井の高い広い神殿の中のようになっていた。 明かりが無かった途中までの道のりとは違い、ここでは天井に魔法の明かりが灯っていた。 少女は目を細めて、慣れるのを待とうとした。ちょうど声のした方を見ながら。 中央に血のように赤い、紅い玉が置かれた台があり、その側にはいかにも魔術師という格好をしたローブの男がいた。 男は少女がおりてきたのを見て、なにやらぶつぶつと呟いていたのをやめ、珍しそうに目を細めて少女を見た。 「……………………」 無言で少女はウィンを肩から降ろし、ただでさえ冷たい雰囲気をさらに鋭いものへとした。 「ふむ、傭兵……といったところかな」 黙ったままの少女を見て、男は呟いた。 「あんたは何者?ここで何をしている?」 男の呟きをほっといて、少女は鋭く問う。答えによってはいつでも腰の剣を抜けるようにしている。 「私はベリアス、見ての通り魔術師だよ」 魔術師は肩を竦めて答えた。 「そんなのは見れば分かるわ。 あたしが聞いているのはあんたがここで何を目的にした人間なのか、ということだ。 さあ、あんたは何をしている?その後ろの玉は何?」 少女は自分が今まで経験していた事も踏まえて、それがなんであるか予測をつけた。 そのうえで、彼女は魔術師に再び問う。 剣の柄に手をそえたうえで。 「私がここで何かしているのか?か……その表情だと、お前は気付いているようだが。 まぁ、いい、教えてやろう。私は……血を求めているのだよ。 この古の宝による精神制御により、戦士どもの戦いへの、血への渇望をより深め、国の重鎮などという豚どもを操り、大地を血で染めるためにいるのだよ」 魔術師の側にある古の宝は魔術師の力を高める道具であった。 悪魔たちがまだこの世界に多く存在していた時、人が悪魔へと対抗するために作り出した道具。 それと同時に、その宝珠は人に一定の精神波を送る事も出来た。 戦乱が始まるよりも前とはいえ、戦は起こる。 宝珠によって兵士の士気を高め、人を殺める罪の意識を取り払い、勝利をつかもうとしていたのだ。 魔術師は宝珠の持つ後者の効果を使い、つい最近再びもたれた和平会議を決裂させたのだろう。 精神波により、疑心暗鬼への状態におとしめる。 兵士に敵国の兵士を憎悪するようにする。 それらは、さして難しくない事だ。 狂ったように……いや、狂った魔術師は甲高い笑いを発した。 「そう」 少女は一瞬、眉をひそめたと思うと一言呟き、腰の剣を抜いた。 「斬るか? どのような依頼を受けたが知らぬがここを調べるように言われたのだろう。 なら、私を斬るべきだろうな」 少女の剣を見ても、魔術師は動じず、冷静な声でそう言った。 「屋敷の探索。怪しいものの排除よ」 魔術師の言葉に答えるように少女は言うと、すでに動き出していた。 魔法の明かりに反射し、白刃が閃く。 しかし、それは届かなかった。 魔術師は一歩、後ろにさがり、避けると、通常なら呪文の詠唱が必要な雷を呼び出し、少女へ放った。 「くっ……!」 雷を避け損ねた少女は弾かれ、床に叩きつけられた。 ガガッ ブーツの底と床が火花を散らす。摩擦で弾かれた勢いを少女が止めると同時に雷の第二撃がきた。 「ちぃっ!」 タッ タン ダッ 少女は横に飛んで避けるとすぐに魔術師に向かって走った。 「ハッ!!」 下から上へと勢いをつけて、白刃ははね上がる。 通常よりも大きいだけに当たれば大きな打撃を相手に与えるだろう。 「くぅ」 下からという避け辛い攻撃に身を反らしながら、魔術師は頬に少しかすり傷を受けつつ避けた。 しかし、最初の攻撃よりも速いその速度に集中が途絶え、第三撃目の雷は彼の手から消えた。 少女は間を置かずに上にあがった刃を下へと振り下ろした。 「……ぐっ!」 魔術師は避けきれず、ローブの肩の部分が裂けて、赤い血が腕を伝う。 激しく揺れた魔術師から金のロケットらしきものが飛んだ。 魔術師はそれに気づいて、少女から注意を反らした。戦いの中に、一瞬の不注意が勝敗を分けることがあると知っていながらも。 それほどまでに、彼にとって、それは大切なものであったのだろう。 少女はそれに注意をふる事はなく、魔術師がロケットに一瞬向けた隙を狙い、とどめとばかりに魔術師の頭を狙い、刃を再び振り下ろした。 少女の動きに左の目を隠す髪が上へと舞う。 彼女の左は右と同じ紫の目ではなく、悪魔しか持っていない血のように深い深紅の目だった。 魔術師は注意を戻し、一瞬の後に呪文を完成させた。 少女が繰り出す攻撃の動きに、その瞳を確かに見て驚愕に目を見開いた。 だが、攻撃を繰り出した手は止めない。 「っ!?」 ダンッ! 少女の刃は届かず、彼女は壁に衝突した。 「がはっ」 ピチャッ 息と血を吐き、床に倒れる少女。 魔術師の攻撃を繰り出した手は雷を放った形跡がない。 しかし、かすかに何かに削られた跡がその下の床に残っていた。 「風を受けた気分はどうだ」 魔術師は唇を横に広げた笑みを浮かべて、少女を見た。 「まさか、『悪魔の子』と出会えるとはなぁ」 雷が音を立てて、魔術師の手に集まる中、彼がいった言葉に少女は憎悪を感じ取れる目で魔術師を睨んだ 少女が生まれるよりも昔。 ある強大な力をもつ悪魔が気紛れで人と交わった。そして、悪魔と交わったある女は子を産んだ。 悪魔と人との間にできた子……そして、悪魔は自らの血を持つ子孫に契約をした。 ―――――己が血を持って我を召還せし時、我は汝の望みを叶えようぞ この話は魔術師であれば誰もが知る『悪魔の子』の話。 そして、闇へと染まった魔術師たちは『悪魔の子』を手に入れ、悪魔の助力を得ようとした。 少女は、その『悪魔の子』であった。 |