風月 藍


 夢を見る。
 それは現実に消して現れないから。
 夢の中に現れる。

『夢から醒めた夢』

「…………っっっ!!!!?」
 ガバッ!
 勢い良く跳ね起きた彼はあたりを見回し何かを確認すると安心したように大きく息を吐いた。
 まだ深夜ともいえる時間。彼の部屋は暗闇に閉ざされていた。
「ライト」
 彼がそう呟くと、彼の手のひらより光が生み出された。光にさらされて端正な顔が浮かび上がる。そこには濃い疲労が刻まれていた。
 光にキラキラと輝く銀髪は汗に濡れペッタリと肌に貼りつき、冷たさを感じさせるほど深い蒼の瞳には苛立ちの光をもっていた。
 チッと舌打ちをし、彼は額に貼りつく髪を払う。寝台から降りて部屋を出ると、次に戻っていた時にはガラス瓶と空のコップを携えていた。
 寝台の傍で水を注ぐと冷たい水との温度差にコップの表面が曇り始めた。
 コトンッ
 ガラス瓶が窓際に置かれる。冷え冷えとした白い月と室内を照らす魔法の白い光が結露したガラス瓶を照らす。
 グッとコップの中身をあおると、ガラス瓶の傍に空になったコップを下ろす。
 窓から差し込む明かりに上を見上げれば窓越しの白い月が彼を見下ろす。白い月を見上げる彼の瞳はどこか遠くに思いをはせているのか心ここにあらずという感じであった。

 彼の名はシェゾ。闇の魔導師シェゾ・ウィグィィという名前を聞けば、裏の世界を知っている者であれば震え上がる事であろう。

 チッ!
 再び舌打ちがもれる。シェゾの顔にははっきりとした苛立ちが浮かんでいた。
 シェゾを苛立たせるのは夢。今日だけではなく、幾度もシェゾに見せ付ける夢。
 その夢そのものが苛立たせる。そんな夢をみる自分に苛立ちを感じる。

「くそっ」
 夢の中で感じたぬくもりがまだ彼の中で残っていた。
 それに抗うかのごとく、シェゾは言葉をはき捨てる。
 けれど、それにはどこか苦々しさが込められていた。

 夢の中で彼女は微笑む。いつもと同じように。
 夢の中で彼女は彼に触れる。優しく包み込むように。

「望んでなどいない」
 自分に言い聞かすように言うシェゾ。
 けれど夢はそんなシェゾを嘲笑うように、シェゾがひた隠そうするものを暴いていく。

 夢の中で彼は彼女を抱きよせる。

「そうだ…望むわけがない」
 夢を否定しようとシェゾはもがく。

 夢の中、薄らと赤い色を帯びた柔らかい花弁に吸い寄せられる。
 夢の中、二人は確かに触れ合った。

 無意識にシェゾの手が己の唇に触れていた。
「っ!」
 ハッとしてシェゾは慌てて手のひらで口を押さえた。
 顔中に血液が上るのが自身でもわかった。

 夢の中で彼女は彼を受け入れる。
 夢の中で彼は彼女を望む。
 夢の中、穏やかな時がきざまれる。
 夢の中、彼と彼女は笑顔を浮かべる。

「今更……すぎるだろ…っ」
 自分自身を嘲笑い、シェゾは再びを月を見上げた。
「それでも、こんなにも追い詰めるのはどうしてだ…」
 自分自身に問い掛ける。

 気付いてしまった想い。
 気付きたくなかった想い。
 告げる事などできるはずがないとたかをくくり、封じた。
 それでも彼を追い詰める。夢という形で。

「覚悟を決めるべきか…」
 それは自分に対する問いかけか、呟きが闇の中にとけていく。
 魔法の明かりは闇にしずみ、再び暗闇が彼を包み込んだ。

  † † † † † † † † † † † † 

「うわぁっ、もうこんな時間かあ」
 亜麻色の髪の少女は夕日に染まる空を見上げて呟いた。
 朱色に染まる大地には幾筋も円や文字などが刻まれていて、彼女が魔法陣を描いていた様子が良く理解できた。
 召還術に関係する練習でもしていたのだろう。彼女が身につけている青いアーマーは魔導師が身につけるタイプのひとつであることからも容易に想像がつく。
 金の色の瞳が空から大地へと戻り、木陰に置かれていたバスケットへと移る。
「もう戻らないとカー君がお腹すかしちゃってるよ」
 苦笑を浮かべて彼女は呟いた。

 彼女の名前はアルル・ナジャ。闇の魔導師や魔王に狙われたりすることである意味有名な魔導師の卵の少女である。
 そのうちに秘めた魔力はとても強大であり、それゆえに狙われてたりするのだが、どうにもそれだけではないのではないのかというのが最近のうわさである。

 お昼ごはんをつめてきたバスケットを抱えて、アルルは家へと歩き出す。
 ザアアアアアアアアッッ
 どこか暖かな風が吹き抜ける。まだ風は冷たい季節の中、それは空気に不似合いだった。
 けれどその風はある時に必ず彼女を吹きぬけるので、アルルは平然した様子で手にもったバスケットを端によけ、目の前をみた。杖をしっかりと握り、いつでも対応できるそんな状態であった。

 そしてアルルの予想通り、道の真ん中、彼女の目の前に、黒一色の服装のシェゾが立ちはだかった。
 すでに彼の愛用の剣は抜かれていて、それをスッと持ち上げた彼はいつもとどこか違う冷めた表情で彼女に剣と瞳をつきつける。
「アルル・ナジャ。勝負だ」
 いつもの言葉なく、いきなりつきつけられた宣言に一瞬彼女は戸惑うものの。
「こりないな、キミも」
 アルルもまた杖を構えて臨戦状態にはいっていた。

 ザッ!
 お互いに走り出す。ぼぉっと立っていればそれは格好の的になるだけだ。意識することなく、二人は動く。
 先手を切ったのは、シェゾであった。魔力が手のひらに集まるのをアルルは感じ、それに対するため唇を動かす。
「ダイヤモンドダスト!!」
「リバイア!」
 アルルに触れて爆散しようとした冷気は、アルルが唱えた魔法によりはじき返された!
「チッ」
 タッとすぐさまに立っていた場所を離れるシェゾの足元に冷気の塊が突き刺さる。
「ファイヤー!!」
 炎が冷気のあとを追い、シェゾへと襲い掛かる更に反転するシェゾの足元の氷がとける。
「まだまだー!ライトニング!!」
「イクリプス」
 雷が走り、シェゾを貫こうとした時、シェゾの身体に薄い膜のように光がつつみ、雷も大地の水を伝い走る余波もシェゾの前に霧散した。
 アルルの顔に緊張の笑みが浮かぶ。やっぱりシェゾはすぐにどうこうできない。アルルは心の中で呟いていた。
 イクリプスを使ったことによりしばらくの間はシェゾに攻撃をしていて無意味。アルルはそう判断して大きくシェゾとの距離をとる。
「無駄だ。スティンシェイド!」
 シェゾはアルルの着地予定の位置を瞬時に予測つけ、腕をつきだす。
 ザシュザシュザシュッ
「きゃあっ」
 大地に触れた闇は弾け、アルルの身体を傷つけた。防御間に合わず、肌に血を流すアルルにシェゾの攻撃の手は緩まない。
「ピュッ」
 スティンシェイドがもつ毒効果を治そうと解毒魔法を唱えようとしたアルルに闇の剣がせまる。
「くっ」
 慌てて飛びのくアルルに攻撃の手は緩まず。
「ダークバインド」
 攻撃の合間、唱えた呪文を解き放つ。近距離から闇の触手がアルルへとのびる。
「ワ、ワープ!」
 咄嗟にひらめいた瞬間、アルルの身体掻き消える。
「無駄のあがきをっ」
 シェゾが上を見上げると、約建物1階層分上の枝にアルルの姿があった。
「ピュリファ」
 自身に解毒の魔法をかけ、アルルは笑う。
「諦めが悪いんだ、ボク」
「ふんっ、そんなのこと知っている」
 シェゾが不敵に笑った。

 夢のことなど忘れてしまいそうだった。
 この瞬間に心が躍る。
 この瞬間に心が囚われる。
 戦いの一瞬。二人だけの時間。
 戦いの中で二人の心はどこか通じ合っている。二人はそう感じた。

「ジュジュジュジュジュゲム!!!」
 戦いの最後を勝ち取ったのはアルルだった。
 気が爆発し、エネルギーの塊がシェゾを吹っ飛ばす!
 ダンッ!!!
「かはっ」
 激しく樹に叩きつけられて、息を吐き出すシェゾ。
 ズルズルズルッ
 意識を失ったのか、静かに地面へと倒れふした。
「やっば!」
 まさか、樹に叩きつけられると思ってなかったアルルの顔が青くなる。

 夢をみる。
 笑いかけてくれる。
 触れてくれる。
 本当は望んでいた。
 誰に渡さず、己のものになればと。

 自然と意識は覚醒し、シェゾが機嫌悪そうに目を覚ます。
 薄っすらと開いた視界を塞ぐように亜麻色と金色が飛び込んできた。
「っ!!?」
 バッ!!!!
 跳ね起き飛び去るシェゾは、膨れ面になるアルルににらまれた。
「起きた早々にそれってないんじゃない。心配してあげたのに」
 パンパンッ
 立ち上がりながら文句をいうアルルの言葉も頭に入っていないのか、シェゾはアルルから視線をそらしていた。
 そうでもしないと、さきほどまで感じていた感触を思い出し、視線を自分の頭が乗っていたその場所、アルルのふとももへといってしまいそうであったから。
「まったく、いっつもキミには迷惑をかけられるよ」
 とっぷりと暮れた中で、アルルは言った。
「どうせ負けるんだから止めればいいのに」
「ふんっ」
 にやにやとわざと笑うアルルに更にシェゾはそっぽを向く。
「キミのせいでカー君がとってもお腹すかしているんだからね。お詫びとして送っててよねっ」
 アルルはシェゾの顔をつかむと自分へと向かせる。グキッという激しい音がしたような気がしたように思えたがあえて無視をする。
「よろしくっ」
 いつもとなにもかわらない屈託のない笑顔で頼むアルル。
 はあっ
 シェゾの口からため息がもれる。
 触れることをためらうシェゾに、アルルから腕をつかむ。
「!」
 必死に顔に血がのぼるのを阻止をして、口早に呪文をとなえる。
「テレポートっ」
 次の瞬間には二人は小道の中ではなく、アルルの家の前へと立っているのだった。
「ありがとー。じゃあねっ」
 にっこりと最上の笑顔でシェゾに振り返り、アルルは家の中へと入っていくのであった。

 適わない。

 ただ、それだけが浮かんだ。
 いつか、この気持ちに整理をつける時がくるだろう。
 決着をつける時がくるだろう。
 そう考えていた。

「アルル」

 シェゾは扉を閉めようとしたアルルを呼び止めた。
 きょとんっとしてアルルはシェゾを見る。

「おまえが欲しい」
「はあっ!!?」

 いつもと同じ言葉。けど、込められる意味は違う。
 それに気づかないアルルは嫌そうな顔をする。

「魔力じゃなくて…『おまえ』が欲しい」
「…………」

 はっきりと決してごまかさない。
 その言葉にしばらく沈黙するアルル。

 ボッ!

 意味を理解したのか、一気にアルルの顔が紅潮する。

「おまえが欲しい」

 もう一度言葉を重ねる。
 その表情はいつもよりも真剣なようにアルルは思えた。
 一度は入ったはずの家を出て、アルルはシェゾの前に立つ。
 無言で返事を待つシェゾに、アルルはしゃがむようにジェスチャーする。
 シェゾの顔がアルルのそばにくる。その耳元に、そっとアルルは囁いた。

「         」

 言葉が心に届く。
 呆然とするシェゾから離れるとアルルは微笑んだ。
 夢の中で何度も彼に見せてくれた優しくて暖かい笑顔。

「また明日」
 じゃあね。アルルは家の中へと入っていった。今度はシェゾに呼び止められる事もなく扉がパタンッと音を立ててしまる。

 つき物が落ちたような、力の抜けたシェゾは、自身の顔を覆う。



 夢から醒めて、夢のような現実が、おとずれた。


FIN





☆あとがき☆
 タイトルは劇団四季のやつですね。ちょうどいいのが思い浮かばなくて、一番しっくり来たのがこれだったので拝借させて頂きました。
 でも、内容まったく関係ないですよ。見に行ったことないので。
 で、2年ぶりですかね(魔導です。シェアルです。
 リハビリぽいものですかね。
 所要時間はそれほどないです。プロットなんて作りませんから私(をい)
 乙女チックな感じのシェゾさんになった気がします。うぅん。
 やっぱくっつく前とか感情に気づいたところとかそうゆう部分が好きだなぁ。
 一番好きなのは自然のなりゆきで一緒にいるやつ。告白とかなくても自然とそうなっちゃう、そんな二人が好きです。
 このシェゾさんは足掻こうとして失敗して覚悟をきめて、でも切り捨てなくて別の形で決着をつけようとしたら予想外の決着になってしまったのです(笑)
 では、またそのうち更新できたら(早くやれよ)

2005.04.27執筆


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