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「…………………………そんなの……ボク、こまるよ!!」 アルルは黄金色の瞳に困惑を浮かべて、彼に向かって叫んだ。そして、彼が声をかける前にその場から走り去った。まるで、逃げるかのように。 「…………くそっ」 その場に残された彼、―シェゾ―は自分の言った言葉を後悔し、自分に対する苛立ちを地面にぶつけていた。 ドサァッ シェゾは自分の家に戻るとベッドの上に転がった。 (言うつもりはなかった……絶対に言わないと決めていたはずだった……!!) シェゾは乱れる心を落ち着けようともせず、自分を責めるように思い返していた。 自分の中にあるアルルへの想い。男として、女であるアルルを愛しているという想い。 だが、己が闇の魔導師であるかぎり、そんな想いを抱く事は許されない。 よりにもよって、それが自ら魔力を奪う獲物としていた少女。 シェゾの蒼い瞳は怒りと苛立ちでいっぱいであった。 すでに想いに対して決着はつけた。 どんなに拒み、あがこうが、己の持つ想いは変わらない。 だからこそ、あきらめた。その想いを認めた。 だが、けして、その想いは告げたりはしないつもりだった。 自分のためにも、アルルのためにも。 ただ、黙ってアルルの傍でアルルを守る、そう決めていた。 なのに、どうして……言ってしまったのだ! そして……何よりもアルルの言葉がシェゾの胸に刺さり、痛みがずっと残る。 星が見えず、ただ月の光だけが大地に届く夜だった。 入手したばかりの魔導書を読みふけて、冴えてしまった身体をもてあまして、シェゾは月夜の散歩の出かけていた。 家の近場にある森をぶらぶらと歩いていた。 森の中で夜に動き始める動物たちの声、自分の足音。その二つの音だけがシェゾには聞こえていた。 ときおり、風が彼の銀色の髪を揺らす。 ――偶然だった…… 「誰だ!」 前方の茂みから、人の気配を感じて、シェゾは鋭い声を茂みへとはなった。 「シェゾ?」 カサッガサガサ ほとんど光の届かぬ森の暗い緑から、亜麻色の髪が見えた。 「アルル?どうして、ここに?」 茂みから現れた少女はシェゾにとって、顔見知りであった。それどころか、今の彼にとって彼女は最も大切な存在だ。 少女―アルル―はシェゾと同じ、なぜ?という表情をしていた。 「月を見にきたんだよ。キミこそ、どうしてここに?」 「オレはただの散歩だ」 シェゾは静かに答えた。 その視線はアルルにある。 アルルの今の格好は普段のシャツとスカートに蒼い片方の肩と肩胸を覆う魔導アーマーの代わりに白いカーディガンを着ていた。春が近いとはいえ、まだ風は少し冷たい。 いつもとかすかに違う。だが、そのかすかな違いがシェゾにはいつもより新鮮な感覚をもたらした。 「ふ〜ん、そっか。なら、一緒に月を見ない?ちょっと、歩くといい場所があるんだよ」 アルルはいつもと同じ無邪気な笑顔で言った。 シェゾは特に断る理由もなかったので、アルルと共に月を見ることにした。 「キレイでしょ?」 「ああ」 少し開けた、広場のような場所。と、いってもそれほど広くはない。 二人は空へと顔を向けていた。 穏やかな時間だった。 シェゾは自分が何であるか思い出し、穏やかな気持ちでいる自分がおかしかった。 ふっと、視線をアルルに移した。 (……ぁ!) ――美しかった…… 細々とした月光を浴び、笑顔を浮かべて、空を見上げている姿は夜の闇の中にひときわ輝いていた。 憧れを空に向ける黄金色の瞳は月のような柔らかい光ではなく、太陽の強い輝き。 アルル自身がそのうちに持つ、輝きもまた、太陽。 シェゾはそう認識をすると同時に自分の想いを再び思い知らされた。 「アルル……」 「ん?」 自然と唇から滑った名前にアルルは反応して、空からシェゾへ視線を移した。 黄金色のその瞳に、心ここにあらず、という感じの自分がうつるのをシェゾは見た。 我知らず、唇は言葉を紡ぐ。 サアァァーーーーーーーーーーーーーーーーーー 風が二人の髪を遊ぶ。 大きいとはいえないシェゾの声を風が消したようにも思えた。 しかし、アルルの瞳は驚愕に見開かれている。シェゾの言葉を捉えたからだろう。 「…………………………そんなの……ボク、こまるよ!!」 「はっ……はっ……はっ……はぁっ」 (なんで?!どうして?!) 「ぐー、ぐー、ぐぅ〜」 森から家までひたすら走ったアルルは自分の部屋の扉を閉めて、その場へと座り込んだ。 部屋の隅にある、アルルのベッドのすぐ近くにカーバンクルが眠っている。 混乱しているアルルの黄金色の瞳はさまざまな感情が混ざり合い、頬を雫がつたう。 「どうして、今なの……」 (もっと後なら、ずっと前なら答える事ができたのに……!!) ずっとガマンしてた…… 想いに気がついたときから。 一流の魔導師とは言わない、せめて一人前の魔導師になったら拒まれてもいい、想いを打ち明けようと思っていた。 けれど、返事を期待していたわけじゃない……お父さんを見つけようと、旅にでようと思っていたから。 けど、一緒にいたくて……!! 見てほしくて……!! 魔導学校に入る前ならよかった……ほんとは自信が無かったから、お父さんのことも。 一人前になってからなら、一緒にきてほしいと言えた。 けど、今はまだ、生徒で、見習いだから……先が見えないのに言う事はできない。 「……いたいよ……胸がいたいよ、しぇぞぉ…………」 涙が止まらない、胸が苦しい。 同じ想いだとわかったのに、ただ一言答えたかったのに、けどできなくて、せつない……。 アルルはうめくようにただ静かに涙を流す。 夜がふけてゆく。 二人の想いとは関係なく、朝日が昇り、月が昇る。 そして、二人は再び会う。 月が輝くあの場所で………… 紡がれた言葉を消すことはできない。 二人はけして元の関係に戻る事はできない。 それぞれの想いを抱えて、二人は新たな関係を築く。 その関係がどんなものなのか……本人たち次第。 お互いの心を打ち明けた時……彼等は何を見つけるだろう。 けして、心を打ち明けなかった時……彼等は何を失うのだろう。 誰も知らない。月と彼等だけが知る未来。 それは………………………………………… 〜FIN〜 |