ウィッチの日常のひとつ
風月 藍


「退屈ですわねぇ」
 ウィッチはガラリとした店の中、カウンターに頬づえをつき、呟いた。
 客のいない店ほど退屈なものはない。

「何か起こらないかしら……」
 彼女の言う何かは普通の場合、普通の人にとっては物騒な事であるが、そんな事には気を止めず、彼女は窓の外に広がる快晴を眺める。
 窓から差し込む陽光に、ウィッチの長い金の髪が輝く。

 カランコロン……
「いらっしゃいませ……あら、アルルさん」
 店の扉が開く音に、営業スマイルを浮かべて毎度の言葉を言ったウィッチは、すぐにいつものすましたような表情に戻した。
 入ってきた客は、この店の常連客でもあり、魔導学校の生徒で、魔導師見習いでもあるアルル・ナジャと、その肩に眠るカーバンクルであった。
「やっほー★ウィッチ」
 アルルはウィッチに挨拶をすると品物が置かれている棚に向かった。
 あらかじめ、だいたいは決まっていたのだろう、アルルは次々と品物を取っていった。
「あれ?
 ね〜、ウィッチぃ〜〜〜!
 魔導酒はぁ?」
「あらっ!すみませんわ。
 今、在庫取って来ます」
 アルルの言葉にウィッチは奥に入っていった。
 アルルは手にある品物をカウンターに置いて、ウィッチが戻ってくるのを待った。



「お待たせしましたわ。
 何本です?」
「2本だよ」
 カチャカチャと数本抱えてウィッチが戻ってくる。
 2本の魔導酒を置いてあるアルルの品物と一緒にして、残りを隅に置くと、ウィッチは早速会計に入った。

「またダンジョンですか?」
「うん」
「ほんと、好きですわね〜」
「えへへ……」
 ウィッチの呆れたような言葉に、アルルは笑って何とかしようとした。
「それじゃあね!」
 買ったばかりの品物が入った袋を抱えて、アルルは出ていった。
 カランコロンっ……

 ウィッチはそれを見送った後、隅に置いておいた数本を棚に入れ、まだ足りないと判断して、今度は数十本をもってきた。
「重いですわぁ」
 棚の前に一度置いて、カチャカチャといわせながら、ウィッチは並べていった。
 そして、他のも足りなくないかと確認してから、カウンターへと戻った。


 それから、随分経って、再び鈴が音をたてた。
 暖かな陽射しに、半分うたた寝していたウィッチは、はっと顔を上げた。
「あいかわらずの閑古鳥だな」
 そう言って入ってきた男、闇の魔導師シェゾ・ウィグィィに、ウィッチはふんっ、と顔をそむけた。
「余計なお世話ですわ」


「また、何かつくるんですか?」
「いや」
 ウィッチの言葉に首を振り、シェゾはいくつか手にとって品物を眺めた。
 シェゾはここの常連客で、薬を作るときなどにもよく材料などを買いにきた。
「あらっ、それじゃあ、シェゾさんもダンジョン探索ですか」
「俺?」
 ウィッチの言葉にシェゾは振り返った。
「ええ。アルルさんも、つい先程……」
「ほぉ」
 アルルという言葉に、シェゾは唇の端をあげて笑った。
「あまりしつこいですと、嫌われますわよ」
「……あのなっ
 俺はあくまであいつの魔力にようがあるんだ!!」
「だって……」
 憤慨するシェゾに、彼が得意とするいつものセリフを思い浮かべたウィッチは、
(わかってないんですわよねぇ……
 アルルさんも大変ですわ……ほんとっ)
 何かを諦めるような、同情をしているような、そんなため息をついた。
「たくっ…」
 かなり不機嫌という感じで、シェゾは目的としていたものなどを買っていった。



 シェゾも去り、再びシーンと静かになった店に、ウィッチは慣れてはいるものの、寂しさをどことなく感じた。

 しばらくすると、時間をおいてちらほらと、数名の客がやってきたりした。
 いつもとそれほど変わらない、少ないお客様の対応をしていると、時間は意外と早く過ぎていった。
 そして、すっかり日が暮れたので、ウィッチは最後の客が帰ると、看板を[close]の向きに変え、鍵をかけた。
 いくつか、品物を軽く片付け、掃除も軽くしてから、移住部分である方の店の奥へと引っ込んだ。


 ふーっと息をはくと、ウィッチは紅茶を口に含んだ。
「めぼしい物は見つかったのかしら?」
 二人の事を思い出し、物によっては明日あたりに売りに来るかもしれないとウィッチは考えた。
「ふぁ……」
 昨夜の夜更かしも、少々あったおかげか、けだるくなってきた身体を寝室まで動かし、ウィッチはベッドへと倒れこんだ。
(ああ……
 明日は品物が届くんでした……わ……)
 まどろみの中、ウィッチは睡魔に身をまかした。


おわり


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