Sweet Memory
風月 藍



「―――――v」
「のわっ!?」
 ボクは彼の名前を呼んで、抱きついた。
 彼はボクがいきなり抱きついていたため、今の今まで読んでいた資料を手から落としてしまった。
「おいっ、いきなり何だ」
 彼は振り返って、しかめ面でボクを睨む。
 でも、ボクは彼に耳が赤くなっているのを知っているので、睨まれても全然恐くなかった。

「あのね、あの時の夢を見たの
「あの時?」
「そう、ボクたちの……」
 ボクは彼に抱きついたまま、赤くなっている耳元で、小さく言った。

。゜゜。† ゜。。゜§ 。゜゜。† ゜。。゜§ 。゜゜。† ゜。。゜§ 。゜゜。† ゜。。゜

 白い小さな教会は日曜学校でもないのに、何人かの子供がいた。
 子供だけではなく、数人の大人も教会の外に集まっていた。
 ―――――――――今、新たな夫婦が祝福される


 見物人たちとは別に、教会の中には、数人の新郎もしくは新婦の友人や家族の姿があった。
「サタンさまはどうしましたの?」
「すっかり気が抜けてるわ。
 今も寝込んでいるのだけど、女にとってはこちらのほうが重要だから」
「そうですわね」
 金髪と青い髪の女性二人はクスクスと楽しそうに笑った。

「シェゾさん、キンチョーしてますネー★」
「うっさい」
 紫の髪の男性がからかうように言うと、銀髪の男性は図星をつかれたようで、憮然としていた。
 蒼い瞳には緊張の色が隠せずにいるのが見えた。
 白いタキシードは、普段は黒ずくめの彼からでは想像できない姿だ。


 ギィィ―――――――――
 ゆっくりと、重い扉が開く。
 その音が聞こえると、花婿を残し、男性は自分の席に戻った。
 その場にいる全員が、真昼の太陽で逆光となっている光の中にある二つの人影の一つを見ていた。

 ゆっくりと、黒髪の人物に手を引かれ、花嫁がバージン・ロードの上を歩く。
 豪奢ではない、シンプルなウェディングドレスは、席に座る母や祖母が『想い』を篭めて作ったもの。
 亜麻色のおろした髪と顔を隠すように広がるベールと肘までもある白いグローブは友人たちが『想い』とともに作ったもの。
 グローブをつけた手が持つ、ブーケは花嫁自身が『想い』を紡ぎ作ったもの。

 黒髪の人物は花嫁の年齢とさほど離れていない。
 彼が父親ではない事はそのことからでも分かる。それどころか、彼は親戚でもない。
 ただ花嫁にとって、兄のような存在ではあった。
 父親の行方がいまだ見つけられずにいる花嫁は、彼にその代わりに、この役を頼んだ。


「おめでとう」
 花嫁が通り過ぎていくと、列席の者たちは皆、拍手をして、祝いの言葉を送る。

 花婿の元に来ると、男性は花嫁の手から自分の手を離した。
「幸せにな。
 ……しっかりしろよ」
「うん」
「お前に言われるまでもない」
 男性は柔らかい微笑と言葉を花嫁に送り、軽く笑いながら花婿に「傷つけるなよ」と眼で釘をさした。
 花嫁は嬉しそうに笑い返し、花婿はどこか挑戦的に笑い返した。


 男性が席に座ると、神父が厳かに式を進めていった。
「汝シェゾ・ウィグィィ……健やかなときも、病めるときも、常にこれを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命の限り固く節操を守ることを誓いますか?」
「誓います」
「汝アルル・ナジャ……健やかなときも、病めるときも、常にこれを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命の限り固く節操を守ることを誓いますか?」
「誓います」

 式は順調進んでいった。
「……指輪の交換を」
 二人はそれぞれ、指輪を交換し合った。
「それでは、誓いのキスを」
 神父が告げると、花婿は花嫁のベールを上げた。
 金無垢の瞳と蒼穹の瞳が向き合う。
 通じ合うものを感じながら、瞳の奥で二人は笑いあい、そっと唇を重ねあった。


 花婿に手を引かれ、バージン・ロードを教会の外へと歩く花嫁。
 二人が外へ出ると、列席者たちが順々に外へと出て行く。

「おめでとー」
「おめでとう」
 村の人々は紙ふぶきを二人に向かい、降らす。
 そして、遅れてでてきた友人たちは下にいる村人の中へとまじり、同じように拍手や紙ふぶきを二人に降らす。

 そんな中、風が吹く。
 柔らかに、暖かに、吹く風とともに、白い花びらのように雪が舞い落ちてくる。
「うわぁっ……!」
 花嫁は空を見上げ、青空の中に降る淡雪のどこか幻想的な風景に、無邪気な笑顔を浮かべる。
「風花か。粋な事をするな」
 花婿は知り合いの人物がしたのだろうと思いつつ、珍しく小さくだが素直な笑顔を見した。
 花嫁はその笑顔をとてもとても幸せそうに眺めていた。



「幸せなのだな」
「きゃっ……て、サタン様。
 おどかさないでください」
 突如聞こえた、低い声に、青い髪の女性は驚いて、振り返った。
「ああ、すまん」
「……もう、よろしいのですか?」
 女性は少し心配そうに深紅の瞳を見た。
「ああ。
 アルルが幸せならば、良いだろうと思う事にした」
「そうですか」
 落ち着いた言葉に女性は暖かく微笑を浮かべた。


「アルル」
 風花を起こしたのだろう人物を見つけ、花婿は花嫁に耳打ちをした。
 花嫁も、青い髪の女性と金の角を生やした男性の、よく見知っている二人を見て、ふわりと笑った。

 そして、たくさんの『想い』
 ――父にたする罪悪感、友人たちの優しさへの感謝、母と祖母への感謝、別れへの寂しさ、何よりも大切な人との幸福、未来への希望
 本当にたくさんの、たくさんの『想い』
 それをこめたブーケを高らかに投げた。

 わっと女性たちが、それを目で追いかける。
 投げられた方向にいる女性たちの中で若い女性たちはブーケをとろうとした。
 男性と話していた青い髪の女性もそれを目で追っていた。


 ふわっ

 取ろうという気もなく、眺めていた女性は、自分のところに落ちてきたものをとっさに受け止めた。
 取れなかった女性たちの残念そうな声の中、女性は緑の瞳を丸くして、花嫁を見た。

『つ・ぎ・は・キ・ミ・の・ば・ん・だ・よ』
 花嫁はいたずらに成功した子供のような笑いを浮かべ、声を出さずにゆっくりと口を動かした。

 クスリっと笑い、女性は花嫁が一生懸命作ったブーケを見、隣の男性を見た。
「良かったな、ルルー」
 男性は、花嫁のブーケを未婚の女性が欲しがっているのを知っているので、そう言った。
「はい。
 ところで、サタン様。
 花嫁のブーケを手に入れた女性はどうなる、と言われているか知っていますか?」
「ああ…………っ!?」
 女性に言われて、「花嫁のブーケを手に入れた人は次に結婚が出来る」と言われることを男性は思い浮かべ、女性が何を言いたいのか気づいた。
「一人では出来ません、けど……私は貴方以外とは嫌です」
 そう笑った女性はとても綺麗だった。今までよりも。
「………………………………」
 何も言えず、男性は顔を真っ赤にして女性から目をそらした。


 視界に入る、花嫁たちの姿。
 幸せに笑う花嫁は、男性が見た中で、一番美しい姿であった。
 同じように、花嫁を見ていた女性も、男性も
 ただただ、新たに誕生した夫婦に祝福あれと願った。

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「ああ、あの時の」
「うん♪」
 そいつは甘える猫のように俺の膝にのり、うなずいた。
「なつかしいでしょ」
「ああ」
 子供のように笑うそいつに俺は素直に返事をしながら、外を眺めた。
 あの時よりも前には考えもしなかった穏やかな時がここにある。

「ボクはキミと一緒にいられる今が、とっても幸せだよ」
 ふんわりと笑ったそいつがとても愛しくて、俺は自然と微笑を浮かべていた。
「俺もだ」
 するりっといつもなら絶対に言わないだろう事を言った。

「シェゾ」
「アルル」
 お互いを確認しあうように、名を呼び合った。
 視線がぶつかり合い、俺達は自然と唇を合わせた。


 ぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱら……
 開いた窓から流れる風に、床に落ちた書類がめくれる音だけが聞こえた。

-fin-


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