星に願いを
風月 藍


「あれ?なんだろう、これ?」
 ボクは図書庫の机の上に置かれた小さな箱を見つけた。
 ボクは借りようと思っていた本をいったん机において、その箱を手にとって見た。
 その箱は特に色とかを塗っていない気のそのままの柄で、シンプルな飾り彫りがしてあった。
 ただ、結構古いのか、汚れた感じがあった。

「う〜ん……んっ!?」
 横にしてみたりとしていると、底にネジがあるのを見つけた。
 ボクはそれをキリキリと巻きだした。
 もういいかなぁ、と思ったところで、やめる。ネジは特に動かない。

「たぶんオルゴールだよね」
 ボクは、一人うなずき、今度は箱のフタをあけた。
「…………あれ?」
 しばらく待ってみても音楽は流れてこなかった。
「ええぇ、もっと巻くのかなぁ?」
 ボクはもう一度ネジを回そうとしたけど、ネジはもう限界という風にかたかった。
「壊れちゃってんのかぁ……
 ……って!これ誰のだろう?」
 いまさらながらに、ボクは思った。
 特に名前を書かれているわけじゃないし、ボクの知り合いにこれを持っていたて言う記憶はないし。
「とりあえず、シェゾに渡しておこうかな」
 ボクはこの図書庫の司書をしている、知り合いというかなんというか、まあ、とりあえず、その人のことを思い浮かべた。

「呼んだか?」
「うひゃあっ!!?」
 いきなり後ろから声が聞こえて、息がかかりボクはおどろいて悲鳴をあげた。
 そのときうっかり、オルゴールから手を離して落としてしまった。
「……なっ……なんだぁ?」
 後ろをふり向いてみると、そこにはさっきボクが落としてしまったオルゴールを預けようと考えていた、この図書庫の司書がいた。
 銀髪碧眼、一見美青年のこの人。実を言うと闇の魔導師という、ボクの魔力を奪おうとしていたりする。
「なんだ、じゃないよ!おどろいたじゃないか!!」
「それはこっちのセリフだ!いきなりでかいキンキン声を出しやがって!鼓膜が破れるかと思ったじゃねえか!!」
「いきなり声をかけてくるキミが悪いんじゃないか!」
「なんだとぉ!」
 危うく、ケンカになりそうなボクたちの声が図書庫に響いた。
 普段なら、本を呼んでいる人とかが注意したりするだろうけど、閉館ぎりぎりですでに人はまったくいなかっただけに、誰もボクらを止めはしなかった。

 そのまま、魔法までもが出そうになったとき、「ぐー!!」という声が上から聞こえて、ボクらは上を見上げた。
「うわっぷ」
 ボトッと上を見上げたシェゾの顔に黄色い何かが落ちてきた。
「カーくん!?」
 それはボクの友達のカーくんことカーバンクルだった。
「ぐー☆」
 ぴょんっとカーくんはシェゾの顔から降りてボクの方へと移動してきた。
「てめぇ……黄色い小動物がぁ……いきなり人の顔に落ちてきてなんもなしかぁ?」
「ぐっぐぅ」
 カーくんは素知らぬ顔(といってもカーくんの表情は良くわかんないんだけど)でそっぽ向いて、ボクに帰ろうよぉといって来た。
 すでに窓の外は茜色になっていて夕飯の時間だった。
「それもそうだね」
 ボクもこれ以上関わるといろいろと定番の事になりそうなので、シェゾのことを無視して、カーくんにうなずき、本とオルゴールを持って、カウンターに向かった。
「これ借りていくねぇ〜」
 よくここには本を借りに来ているせいか、すっかり手順を覚えたので、ボクたちに文句を言いようにもいえない状態で突っ立っているシェゾに軽く言って、手続きをした。
 帰りにカレーの材料を買って、家に戻った。

「う〜ん、やっぱ、ちゃんとした人に直してもらったほうがいいかなぁ」
 夕飯の後、持ってきてしまったオルゴールを分解とかはしないで、いろいろといじくったけど、やっぱり壊れているみたい。
「今ごろ、さがしているって言う事は無いよねぇ……」
 オルゴールの持ち主がこれを探していると思ってボクは明日にでも、と書庫に預けるかしておこうと考えた。
「にしても……どんな音楽なんだろうなぁ」
 直してからじゃだめかなぁ……
 ボクはそんな事を思った。


 次の日の朝、ボクは朝少しだけ早くに家を出て、図書庫に向かった。
 シェゾはめんどくさがりのわりにはと書庫を早くから開けるので、すでにこの時間、図書庫は開いている。
「んっ、まだ時間じゃない……と、アルルか。どうした?」
 ボクがドアをあけると、カウンターでごそごそとしていたシェゾが顔を上げた。
「あのね。昨日、これをここで見つけたんだ。預けようと思ったのに間違えて持って帰ちゃったから……」
「んっ!?それは……」
 ボクがシェゾにオルゴールを渡そうとカウンターにそれを置くと、シェゾはそれをみておどろいた顔をした。
「知ってるの?」
 ボクがそう言うと、シェゾは決まり悪そうな顔をして、言った。
「……俺のだよ」
「ええっ!!」
 シェゾがぼそりといった言葉にボクは思わず、大声を出してしまった。
「なんだよ。俺が持っていちゃおかしいのか」
 シェゾはじろりとボクをにらんだ。
「い、いや。ちょっと意外だなぁ、て思っただけ」
 ボクがそう言うと、結局は同じじゃないかという表情をシェゾはした。

「あっ、そうだ!ねえねえ、それじゃあ、それがどんな音楽か知ってるんでしょ!どんなの?」
 ボクが気になっていたことを思い出して、カウンターに身を乗り出すと、シェゾはオルゴールと手に取った。
「知らん」
「へ?」
 シェゾの一言に、ボクはきっと気の抜けた顔をしていたと思う。
「かなり昔のだからな。この前、偶然見つけたんで、暇つぶしに直そうと思って持ってきたんだ」
 シェゾがオルゴールを下にしまうと同時に、いきよい良く図書庫のドアが開いた。
 ボクとシェゾは音にビックリしつつ、顔をドアに向けた。
 そこには青い髪にきれいなお姉さん、つまりはルルーがいた。
「ここにいたわね!」
「え?え?何?どうしたの、ルルー?」
 ボクにずんずんと近づいてくるルルーはなぜか怒っているような感じに迫力があって、ボクは思わずじりじりと後ろにあとずさっていた。
「ちょっと、来なさい!!」
 むんず、とボクの腕をつかんだかと思うと、ボクが抵抗するまもなく、ずるずると引きずっていった。
「??????」
 ボクは呆然と見ているシェゾを見て、同じような顔をボクがしているんだろうなぁ、と頭の隅で思った。

 結局ルルーの用事は今日の朝、いきなりやってきていつものように「后になれ!」と言ってきたサタンを吹っ飛ばした事についてだった。
 長々とルルーのお説教を聞いた後は、授業があったので放課後になるまで図書庫に向かう機会も無かった。
 ふっと帰るとき、オルゴールのことを思い出したので、なんとなくと書庫に行ってみると、けっこう人がいて、
 シェゾも質問や貸し出しに忙しそうだった。
 仕方ないので、適当な本を見つけて時間をつぶして人が落ち着くのを待った。
 閉館したあとでも、聞けるからね。

 時間がきて、みんながぞろぞろ、ばらばらと図書庫を出て行くと、シェゾは周りの片づけを始めた。
 意外とマメだよねぇ……
 とりあえず、ボクも周りのやつで出っ放しのイスとかを片付けて、シェゾに声をかけた。
「ねえねえ、シェゾ。オルゴール直った?」
「あん?……まだに決まってんだろう」
 シェゾもひととおり確認を終えたので、カウンターに戻り、帰り支度を始めていた。
「じゃあさ、じゃあさ。今日、直す?」
「……そうだなぁ。ヒマといえばヒマだからな」
「ねえ……ボク、それ見ていても良い?」
「は?」
 ボクのことばにシェゾはきょとんとボクを見た。
「だから、シェゾがそれを直すのみていてもいい、て聞いているの。ボク、そのオルゴールの音楽聞きたいもん」
「………………………………………………………………………………」
「何、その、ものすごぉくいやそうな顔は」
「その言葉の通りだ」
 ボクは黙り込んだまま、とってもいやそうな顔をするシェゾに唇をとがらせて文句言うと、シェゾは眉を寄せて、言った。
「いいもん!勝手に行くからね!!」
 ボクはそう返した。

 そして、実際。帰り支度をするシェゾをじっと待って、シェゾに家までついて行った。
「……なんでそんなに気になるんだ?」
 呆れながらも、ボクを家に入れてくれたシェゾはそう聞いた。
「わかんない。なんか、とっても気になるんだ」
 ボクは正直にそう言った。
 すると、シェゾはため息をついた。
「ああ、そうかい。とりあえず、適当に座ってろ。時間かかるかもしれないが、自分で帰る時は帰れ」
「うん」
 シェゾは作業を始めた。
 実際、始めるとすぐに熱中しだしたようで、ボクが退屈なので本を取りに前を通り過ぎた時も、まったく気づいた感じが無かった。
 そうこうしている内にお腹がすいてきた。
「ねえ、シェゾ」
「………………」
 声をかけてみるけど、まったくシェゾは反応しない。
「どうしよう。もうこんなに真っ暗だしな。
 カーくんも待ってるし……」
 そんな風にボクがぶつぶつと呟いていた。
 窓の外はだんだんと暗くなり、星が少しずつ姿を見せ始めた。

 結局、シェゾの台所を借りて、勝手にご飯を作らしてもらった。
 カーくんには悪いけど、なぜかボクにはとてもこれが気になるんだよね。
 すっかり外が暗くなって、星がいっぱい輝いている時間にシェゾが持っていた道具とオルゴールを置いた。
「終わった?」
「ああ……
 ……って!まだいたのか!?」
 ボクは肩越しにオルゴールを見つつ、そう言った。
 シェゾはそれにうなずいたかと思うと、バッとうしろをふり返ってボクを見て、とっても驚いたように声をあげた。
「まだいたのかって……できるのを待っていたんじゃないか」
「だからって、こんな遅くまでいるか、普通」
「うっ……」
 そこを言われるとボクも辛い。
 ほんとーに、どうしようか、て考えていただけに。
「いいじゃないか!
 それよりも、できたんなら、聞かせてよ」
 ボクは話を変えるかのように、シェゾに言った。
「良くないだろうが……だいたい……」
 なにやらぶつぶつボクには聞こえずらい声でシェゾは呟きつつも、ネジをキリキリとまわした。

 その後、なぜかシェゾは外へ出た。
「ねえ、どうして外に行くの?」
「こっちの方が音が良く分かるからだよ」
「そうなの?」
「俺にとってはそうだ」
 ボクが後ろについていき尋ねると、シェゾはキッパリと答えた。
 シェゾは家からそれほど離れていない場所で座った。
 ボクもその隣に座る。
 そして、シェゾがオルゴールを開けると、きれいなメロディが流れ出す。
 オルゴールってあまり大きな音がならないし、外だから反響も少ない。
 けど、音が風に流れていくのが感じられた。
 ボクは、思わずその音色に聞き入っていた。



「ぐぅぐぅ〜」
 カーくんの声が聞こえて、なにかぺしぺしとボクの顔を叩く。
「はれ?」
 目を開けてみると、ボクの顔を叩くカーくんと天井が見えた。
 起き上がると、カーくんがぽてんと掛け布団に落ちる。
 あたりを見回してみると、そこはボクの家だった。
「あれぇ?」
 さっきまで、シェゾとオルゴールを聞いていたはずなのに?
 外を見てみても、とても明るく太陽が輝いていた。
「あっ!!学校!?」
 ボクは急いで立ち上がった。服は昨日のままだった。
「ぐっぐ、ぐう!」
 カーくんがぺしぺしと紙を叩いた。
「え?…………あっ!?」
 カーくんが叩いている紙を見てボクは気づいた。
 今日は休みの日だった。ていうことに。

 その後、ボクとカーくんは朝ごはんを食べた。
 そして、あのあとどうなったのか良く分かんないので試しにカーくんに聞いてみると、シェゾがボクを運んできてくれたらしい。
 そんなわけで、ボクはお礼を言いにシェゾの家に向かった。
 その日はとっても気持ちのいい日だったので、ボクも自然といい気持ちだった。

 シェゾの家に着くと、昨日と同じメロディが聞こえてきた。
「シェーゾー」
 ボクは大きな声でシェゾを呼んだ。

FIN


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