妖精の湖 〜なごり〜
風月 藍


  桜色に頬を染め
  静かな風に亜麻色の髪を揺らし
  金の瞳に意志の光を持つ
  愛しい少女

「またあの時のか……」
 俺は夢から覚めて起きるとそうつぶやいた。
 いまだに覚えているあの時。



 俺はあの日、眠れないので散歩をしていた。
 散歩をしていた場所は妖精の湖と呼ばれる場所。高ぶった気持ちを抑えるにはちょうどいい場所だ。
 湖には先客がいた。亜麻色の髪と金の瞳の少女、アルル・ナジャ。
 強大な力を秘めた。俺の獲物。
 何時からだろうか、獲物としてではなく一人の女として見るようになったのは。
 だが、言えるわけが無い。
 俺自身が認められずにいたのだから。

 湖にはすでに光が舞っていた。
 それは青、銀、蛍の淡い光が混ざり合い、妖精の湖という呼び名にふさわしい美しさだった。
 なにより、その中にいたアルルがとても綺麗だった。思わず、見とれるほどに。
 アルルの瞳から、流れるものが見えた時、足が自然と進み出た。
 パキッと足元から音が出る。
 小枝を踏んだ音だ。俺は一瞬身体が固まり、そっとアルルのほうを見た。

「シェゾ!?」
 アルルは驚いたように俺を見つつ、言った。
 ちっ、仕方ないか。
 俺はアルルのほうへと歩いていった。

「なに泣いてんだ?」
 自分でいいつつ、いつもと声の調子が違う気がしていた。
「べっ……別に、なっなんでもないよ」
 アルルは慌てて涙を拭いて言った。
 なんとなく納得はいかないが聞くだけ無駄だろう。
 時々、ひどく頑固になるからな、こいつ。
「ふ〜ん、ならいいが。こんなとこにお前がいるなんてな」
 俺はわざと湖のほうを見て言う。
 湖には蛍の光が舞うように飛んでいた。
「シェゾこそ」
 アルルは顔を少し赤くしながら言った。
「…………………………………………」
 沈黙が流れる中、俺はそっと横目でアルルを見た。
 アルルの頬は少し赤みが引いて桜色に染まっていた。何を考えているのか湖のほうを見ている。
 もし、同じ光だったら、俺が「闇の魔導師」じゃなかったら……いや、やめよう。こんな事を考えてもしかない。
 俺は俺でしかないのだから。

「アルル……この湖がなんていうか知ってるか?」
 湖を見たまま、俺は何故かそんな事を言った。
 どうして、そんな事をアルルに聞いたのか、俺自身にもわからなかった。ただ、口から自然と出た。
「妖精の湖でしょう。
 確か、ここのホタルがとってもいっぱいできれいだから妖精のようだって言う事で言われるって」
 アルルは湖を見て言う。確かにそれもあるが、最初の頃は違った。

「そうだ。
 それともう一つ、ここは魔力に満ちている。昔はここにいる妖精たちを誰もが見えるくらいにな。
 今もいるけど、力ある人間にしか見えない。
 ……実際に妖精を見た連中が名づけたのかもな」
 昔の連中もなかなか面白い事をする。
 俺は微かに笑いながら思った。

「妖精……」
 アルルが呟く。その金の瞳は湖の光を見ていた。
 光に照らされているアルルはとても綺麗でオレは再び見とれていた。
 認めるわけにはいかないと思っていても、想いは強く、大きくなっていく。
 もう、すでにとめられなくなっているのかもしれない。

 ならば、せめて、――せめて……こいつの傍にいたい。



 いまだに残る、あのときの幻影
 無邪気に笑うあいつを見てもあの瞬間を思い出す。
 俺の中にまだ残っている
 ――――――――――――――――――なごり


FIN


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