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「くそっ!! この程度じゃ駄目だ!!」 バキッ すでに魔力を奪ったアイテムが俺の手の中で砕ける。 奪い取った魔力を己のへと換えても、微々たる高まりしか感じられない、その事に対して苛立ち、手に力がこもってしまった。 『主よ。何をそれほど焦っている』 「焦ってなどいない!!」 もう片方の手に握っている闇の波動を放つ剣―闇の剣の問いかけに俺は声を荒げて、怒鳴った。 ――焦っているだとっ!? 俺が?何に? そう自分に問いかけるように思った時、金の瞳が頭をかすめる。 「気分が悪いっ……!!」 問いかけと同時に思い浮かんだ一人の人物。 何故か胸がムカムカする。 俺は吐き捨てるように呟き、その場を後にした。 夢を見た。 アイツが俺ではない他の誰かに微笑んで、幸せそうにしている夢を。 「なん……なんだよっ……」 俺はただ強さを求めて相手の魔力を奪ってきた。 そして、強い魔力を感じた。 手に入れれば、俺はもっと強くなれる そう思った。 強い魔力の持ち主のもとへ向かった。 初めて会ったとき、俺はアイツがそれほどまで強い魔力を持つことに驚いた。 そして、たやすく手に入るとも思った。 アイツはあまりにも戦いなれていないから。 けれど、俺は負けた。そして、その日からアイツの魔力を手に入れようとした。 そう……アイツは俺の獲物。 なのに、どうして……どうして俺はアイツが笑う夢を見る!? こんなにも、胸が苦しいんだっ!? バサァッ マントを引っつかみ、外に出る。 夢のせいでムシャクシャするから、散歩にでも出て、気分を落ち着かせようと思った。 「満月か……」 外は星と月で結構明るかった。 視界を邪魔するように銀の髪がゆれる。 「伸びてきたな……そのうち切るか……」 俺は自分の髪を手であげ、バンダナの位置を高くする。 上のほうに視界が広がり、月がよく見えた。 ふっと、まん丸とした満月にアイツを思い出す。 太陽のように強い輝きの瞳、なのにアイツの瞳の奥に月のような柔らかな輝きを感じる。 アイツの事を考えると変な気分になる。 アイツと会うと俺自身が変になる。 他の奴らやアイツは気づいていないだろうが、 俺はアイツの近くにいると落ち着かなくて、 呼吸が苦しくなり、 胸が強く締め付けられる。 アイツが他の奴に笑いかけるだけで、黒いドロドロしたものが俺の中に現れる。 アイツが俺に触れると、心が安らかになる。 アイツが俺に笑いかけると、今にも血が沸騰しそうになる。 「くそっ……!」 わけのわからないものが渦巻く。 俺は苛立ち、自然と歩きも荒くなり、あたりへの気の配りも散っていく。 頭を冷やそうとしても、いつの間にかアイツの事を考えてしまう。 「見つけたっ……!!」 若い男が突然の前に現れた。 「誰だ、お前? 通行(俺)の邪魔だ」 俺は男の言葉に?と思いながらも、苛立っているため、男を睨みつけて、冷たく言葉を出した。 「オマエに家族を殺されたものだ!!」 男の叫びに俺は「はぁ?」と首を捻った。 「あいつが魔導師だった……それだけのことで、 あいつはオマエに魔力を奪われ、殺された!!」 魔導師なんかはいくらでも殺していたが、つい最近にはそれほど殺していないから、そのどれかであろうと俺は思った。 「それで、どうするんだ?」 答えを予測しつつ俺がそう言うと、男は懐に手を突っ込んだ。 「こうだ!!」 そして、言葉と共に短剣を握り締め、俺に向かって突進してきた。 ――やはりな 俺はそれを容易く避けると、闇の剣を呼び出した。 「くっ このぉ!」 男は反転して、再び俺に向かってくる。 ――素人か 隙だらけの動きに俺は簡単に男のバランスを崩す事ができた。 「後腐れは無いようにしないとな」 自分でも少し驚くほど俺の声は平坦で冷たかった。 いつも、これほど俺は平坦に人を殺めていたのだろうか…… 普段なら気にも留めないことを思った。 「くぅ……」 俺は顔をそむけて目をつぶる男に剣を振りかざす。 「ダメっ!!」 突如、茂みから声と共に人が現れ、男に被さった。 振り下ろす剣を止める暇など無かった。 鮮血が舞う。 葉にも、地面にも、男にも、俺にも、血痕がとびつく。 男のではなく、別の……血が。 一人の少女は白い服を朱に染めていた。 青いスカートへと広がる紅。 「アルル!?」 俺は、その少女を見て叫んだ。 亜麻色の髪に、金の瞳の少女。俺の心を乱すアイツ。 それがなんで?? ――なんで、ここにいるんだ!? 「あ……あ……」 言葉を無くてして、呆然とする男をどかし、俺はアルルの身体を抱きかかえた。 「……イッ……タイ……なぁ」 アルルは苦笑しながら途切れがちに言った。 「喋るな」 俺は傷に手をあてて、回復を行なった。 どうして、ここにいるのか?何故、飛び出したのか? 聞きたい事はあったが、治療が先だった。 傷はそこそこ深い…… 俺は、激しく自分を責めていた。 ――なんで、止められなかった! あれ位なら、できただろうが!! 何とか傷を塞ぐと、俺は即座に空間転移を行なった。 男の存在など、すっかり頭から消えるほど、俺の頭はアルルの事でいっぱいだった。 「ありがとっ」 ベッドの上に横になったアルルが俺にそう言った。 俺は、その言葉にズキッと胸のどこかに痛みが走った気がした。 そのためか、それともアルルの言葉のせいか、俺は激しく言葉を吐いた。 「どうして、飛び込んできた!?」 アルルは突然大声を上げたので、目を丸くして俺を見た。 そして、途惑うように言った。 「さあ?……わかんないや ただ……キミが人を殺すのが見たくなかったんだ」 微笑むアルルに俺はわけがわからくなった。どこかで何かタガが外れたような気がした。 「何故……!? 何で、笑っていられる!? 俺はお前を斬ったんだぞ!!」 「だって……キミのせいじゃないでしょ。 ボクが勝手に飛びだしたんだし」 冷静に考えれば、アルルが言う事の方が正しだろう。 だけど、俺はアルルを傷つけた事自体が許せなかった。 その時、俺は今まで、自分がどうしてあの夢を見るのか、 他の奴に笑いかける事に苛立つのか、 その正体を知った。 「ねぇ、シェゾ。 キミはキミを責めちゃダメだよ。 ボクが勝手にしたんだし、 ボクは平気なんだから」 俺は泣きそうな顔でもしていたのだろうか…… アルルは優しく、心配そうに俺を見つめて、微笑んだ。 ――勝てないわけだ 正直、俺はそう思った。 コイツは俺が考えていた以上に強い。 心が……精神が…… 俺とは比べようがないほどに。 人を許せる強さを持っている。 俺はアルルを見下ろしながら、実感した。 俺がそんな風に感じていると、アルルは突然話し始めた。 「ボクね。 最近、悩んでいたんだ、いろいろ。 でね、ルルーに相談したんだ。 そしたら、「やっと、女になったわね」て言われただけで、 ボクの悩みって結局解決しなかったんだ。 でもね、 ここ数日、ずっと考えていたんだ、ルルーの言っていた「女」ていうのと、悩みの両方を。 で、煮詰まって散歩していたんだ。 それで、あの場所に出くわして、キミを見て、 やっと、わかった気がしたんだ」 アルルは独白というか、気持ちの整理をつけながらといった感じの言葉に俺は何が言いたいのかまったくわからなかった。 「何が分かったんだ?」 突然の話題転換(?)に俺は気がそがれつつ、うながす。 「キミを”愛”してる、ていうこと」 にっこりと晴れやかにアルルは笑った。 俺は何気ない一言のように言われた言葉に真っ赤に顔が染まるのを感じた。 ぺたりとへたり込んで俺は乾いたように笑った。 「ははは…………」 ――素直に認めよう コイツに適わない事を。 己のつい先程知った正体の想いを。 アルルと同じ想いを。 「シェゾ!?」 へたり込む俺にアルルが驚いて身を起こそうとする。 「つぅ……!!」 傷の痛みにアルルは顔をゆがめる。 「ちゃんと寝てろ」 俺はすぐに立ち上がり、アルルの肩を持って寝かしつけた。 「うん」 無防備な赤ん坊のようにアルルは力を抜いた。 スゥーという寝息を聞きながら、容易く眠りに付いたアルルに俺は自然と苦笑を浮かべていた。 「ガキみたいだよな、こうゆうところは……」 穏やかに眠るアルルを見て、俺は愛しいと自然に想えた。 それと同時に自分が傷つけた事が、深く俺の中に傷のように残る。 「ごめんな…… 俺も……”愛”してる」 眠るアルルの耳元で、小さく囁き、俺はアルルの家をあとにした。 耳元から顔を離した時、微かにアルルが夢で見たように笑ったような、 そんな気がした。 FIN |