始まり
風月 藍


 ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…
 大粒の雨が激しく荒野の大地を打つ。
 あまりの激しさにあたりを見通すこともできない。
 そんな悪天候の中、一人の男が静かに存在していた。

 じっとりと水分を含んだ漆黒のマントと衣服、紅のバンダナ。
 水滴をはじく鋼のブレスプレートの輝きは彼の髪のような銀。
 腰に佩いた剣からは剣士というイメージをわかせた。

 何をするのではなく、まぶたを閉じ顔を天に向けて、たたずんでいた。
 スッと閉じられたまぶたが開かれ、その下に隠された深紅の瞳が現れた。
 彼が額にしているバンダナよりも深く、しかしながら人形の様な無機質な輝きを持ったピジョン・ブラッドの瞳。

 自分に打ち付けられる雨をみつめ、彼は思いをめぐらす。

 ―どうして まだ 存在をしているのか
 数日前、彼はある魔導師から魔力を奪った。しかし、完全に、ではなかった。だから、全てを奪おうとした。
 そして…それは失敗し、彼は魔力の主と少女たちに敗れた。

 彼は脳裏に自身とは対照的な蒼い瞳の青年とその連れを思い出していた。
 その中で、金の瞳の少女を思い浮かべたとき、ふっと彼は一つの出来事を思い出した。
(あの時もこんな雨だったな…)




 今よりも少し酷い雨の中、今のように彼は立っていた。
 そこに、雨宿りをしていた少女が彼を彼が魔力を奪った魔導師と間違えて呼びかけてきた。
 同じ姿をしていたから、偽りの彼の姿をみて、男の名を呼んでいた。
 あの時は何も気に止めず、あの男の知り合いと判断して、立ち去った。
 それが、あんな風に自分の前に現れるとは彼は考えてもいなかった。
 少女と青年ともう一人の女の三人と戦い、彼は確かに倒されたはずだった。
(なのに…どうして我はここに存在しているのだ……?)
 それも本来の時空の水晶としての形ではなく、あの魔導師のドッペルゲンガーの状態で。
「わからん」
 だいぶゆるくなってきた雨の中、彼は首を横に振った。

「何が分からないの?」
 突然、声が聞こえた。
 彼はバッと声がした後方を振り返ると、そこには今現在思い浮かべていた、何故か引っかかりを感じるあの少女がいた。
「お主は…!?」
「アルル・ナジャ…ではないよ。
 ドッペルゲンガーみたいなもの」
 にっこりと笑うその亜麻色の髪の女は、あの少女と同じ顔をしながらも纏う雰囲気は違っていた。
 あの少女がもつ幼さがすっかりと消えているような大人びた雰囲気を彼は感じた。
 そして、それだけではなく、目の前の彼女は少女がつけていた青いアーマーと同じ形の色違いである紫のアーマーをしていた。

「そのドッペルゲンガーが何のようだ?」
「なんとなく…かな。あなたが悩んでいるみたいだし」
「なに?」
 フフッと笑う彼女に思わず彼は目を丸くした。
「『どうしていまだに自分はココにいるのだろう』
 そんな風な事を考えていたんでしょう?」
「……………………」
 違う?と首をかしげる彼女の言葉を心の中で彼は肯定していた。

「あなたは闇の剣士の…シェゾのドッペルゲンガーとして存在している。そう、『影』として…
 だけど、あなたはあなたであることを望んでいる。
 『影』は嫌なのでしょう?
 だから、彼から魔力を全て奪い、彼のドッペルという立場を失くして元もあなたに戻ろうとした。
 けど、あなたは負けた」
 ピクンッ
 彼の身体が強張るを彼女は感じた。
「あなたは今、元にも戻れず、『影』としての存在意義もなくしたも同然な状態」
 厳しい彼の視線が彼女を刺すかのように注がれる。
「……けど、いいじゃない。
 敗れてドッペルの存在意義もない。ならば、『あなた』としてこの先生きていけば。
 水晶に戻れないのならば、それとも別に新しく道を進めば」
(なっ…!?)
 あっさりと彼女は言った。しかし、彼女の口調とは裏腹に彼は大変戸惑っていた。
「何…を」
 声が震えていると彼は人事のように自分の声を聞いていた。
「私があなたに新しい名前をあげる。新しい道を進むために」
「な?!」
 驚かされてばかりの彼にダメ?と彼女は首をかしげる。


「…………………………………………」
 長い間、彼は考えてこんだ。
 自分が雨の中、深く考えていたことがあっさりと今くずされていく。
 そんな風に思いながらも目の前に人物が言ったことに不愉快はなく。
 なぜか、素直に受け入れることができた。どうしてだかは、わからない。
「…かまわない」
 沈黙の後に彼が続けた言葉に、彼女は笑った。
 その笑顔に彼はなにかが胸の奥からこみ上げくるような、そんな気分になった。
(これは…なんだ?)
 戸惑う彼を尻目に、彼女はしばし考え込む。


 いつの間にか、雨はやんでいた。
 雲の切れ目から光が大地へと差し込む。
 不思議なことにその光はまるで巨大な十字架のような形を大地に光の影として落としていた。
 美しいと、二人はその光に目を奪われた。

「そうだ!
 あなたの名前はクリスよ!!」
「クリス?」
「そう、クリス。十字を少し読みかえったの。銀色のその髪にもきっと合う名前よ」
 彼女は微笑んだ。
「……クリスか…悪くないな」
 彼はほんのすこし唇の端を持ち上げた。
「…そういえば、お主の名は?」
 ただのドッペルゲンガーではないのだろう?と付け足しながら彼は問うた。
「………………………………」
 突然、彼女は黙り込んだ。どこか哀しそうに目を伏せて。
「名前は…今は無いな。過去にはあったけど、あの名前は今は意味をなさないから…」
 彼女は呟くような感じに言った。
「…………」
 互いに黙り込み、沈黙が一瞬流れた。
「……ならば、今日からお前はレイと名乗れば良い」
「え?」
「お主が我に名前を与えたように我はお主に名前を与えると言うことだ」
 きょとんっとする彼女に彼は言った。
「それがレイ?」
「そう。お主が今、あの光を見て思ったように我はお主に光を感じた。
 それに、お主のその瞳に『光』の意味を持つこの言葉はよく似合うぞ」
「…………」
 しばらくの沈黙のあと、彼女はフフッと笑った。そして、
「ありがとう」
 そう、彼に言った。
「いや」
 そう、言いながらも彼もかすかに笑っていた。






「…………私がいるところは、この世界と全く別の場所で、まったく何も無い場所だけど…
 それでもよければ私といっしょに来ない?」
 彼女はふわりと、浮かんだ。そして、彼に手を差し伸べた。
「ああ、行こう」
 彼はその手を握り、確かに頷いた。

 サァーーーーーーーー…
 冷たい空気が風となり荒野を吹く。
 それはほんの一瞬だった。
 その一瞬。瞬くほどの間に彼女は己がいた空間へと戻っていった。……彼と共に。



「ねぇ」
「なんだ?」
「その『お主』と『我』てやめない?」
「?」
「その姿で言われても似合わないんだもの」
「なら、どう言えと?」
「うーん…普通にそのくらいの人が言うぐらいが良いと思うわ」
「……ならば、そうしよう。『お前』が『俺』にそうして欲しいのなら」
「うん」


〜fin〜


あとがき
えー、6000HITリクエスト「Dシェアル」です。ドッペルとドッペル。ちなみにアルルは「はちゃめちゃ期末試験」のDアルルさんです。真・魔導物語とかの年表の彼女らしいので、そこらへん匂わした発言とか。
つぅか、「わくわくぷよぷよダンジョン」ないのでDシェゾさんがよく分からなくて大変です。
とりあえず、角川の超を参考にしてみました。どんなものでしょうね?
私的に彼らドッペルはただの影じゃないんですよ。別の存在。ていう感じ。
理由はDシェゾの場合は元が時空水晶で本人もそう言っているから。Dアルルの場合も彼女が言った台詞などからアルルとは別物という考えにいたり、年表とかの発言とかでその考えが固まりました。
二人の小説と言われて、ぽっと思い浮かんだのが、この作品。二人の対話みたいなものだったのですよ。
ちょうど、わくぷよからいくらか経ってからで、彼が消滅はしていない。という、なんていうか、ゲームしてないのでEDに関わるもの入れられなかったのが悔しいかな。 とりあえず、二人が出会いました。新たな名前を得て、彼と彼女の二人の時間が「始まり」だしました。


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